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中村弁護士コラム 第39回

業務上の競争関係にある者からの株主名簿の閲覧請求について

弁護士 中村直人

日本ハウズイングと原弘産の株主名簿閲覧謄写請求仮処分事件抗告審決定で、東京高裁は、東京地裁の決定を覆して、原弘産による株主名簿の閲覧謄写請求を認める決定をしました(H20.6.12金融商事判例1295号12頁)。会社法で新しい論点となった問題ですが、早くも地裁と高裁で意見が分かれたということで、注目を集めています。

株主名簿の閲覧謄写請求権については、旧商法では、特段会社による拒否事由が定められておらず、解釈で、権利の濫用のような場合には拒否できると解されていました(最判H2.4.17金融商事判例867号14頁)。会社法では、新しく拒否事由が明定されました(法125条3項)。そして同項3号は、「請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき」と定めています。

今回の事件では、東京地裁は、この条文の文理に従い、客観的に競争関係にあれば閲覧謄写を拒否できるものであり、それ以上に株主情報が競業に利用されたり株主のプライバシーが侵害されるおそれがある等の事情の存在を要件としないとし、原弘産は競争者であるとしてその請求を却下しました。いわゆる主観的要件不要説と言われる考え方です。また保全の必要性も認められないとしました。

一方高裁決定は、法125条3項は、権利の濫用による請求の場合に限定して排除するものであって、株主名簿の閲覧謄写を通じて会社の機関を監視し会社の利益を保護する目的を制限するものではないとし、同項3号の趣旨について、同項1号2号が原則規定であって、3号については、競争関係にある場合には会社の利益を犠牲にして自己の利益を図る目的であることを推定することとした趣旨であり、3号に該当する場合であっても、株主がその株主としての権利の行使の目的で行ったことを証明すれば、会社は株主名簿の閲覧等を拒否できない、という趣旨の解釈を示しました。その理由は、ただたんに競争者であるということだけで株主名簿の閲覧等を拒否できるとするのは合理的な根拠が見あたらないから、というものです。いわば主観的要件推定説ということです。

この問題は複雑です。旧商法時代は、会計帳簿の閲覧等請求(旧商法293条ノ7)において、類似の拒否事由が定められていたことから、同様の議論がなされていました。客観的に競争関係であれば拒否できるという主観的要件不要説、不当な目的が存在することが要件であるとする主観的要件必要説、競争関係にあれば主観的要件が存在すると推定されるとする主観的要件推定説がありました。通説判例は、不要説でした。しかし二つの点で、今回の問題とは状況が異なっています。ひとつは、当時の商法の規定では、「・・・競業をなす会社の社員、株主、取締役・・・」となっていたため、請求者が一株でも競争会社の株式を持っていれば形式的に要件に該当してしまうので、それを限定的に解する必要があるという考えがありました。この点、新法では、「実質的に競争関係にある事業を営み又はこれに従事」とされましたので、この問題は解決されています。もうひとつは、この議論は会計帳簿の閲覧の議論であり、競争者であれば確かに製品の原価などまで分かってしまいますからその閲覧の請求を制限する理由が分かるのですが、本件は株主名簿の閲覧等であり、何故それを制限する必要があるのかよく分からないということです。

そこで何故会社法では、従来会計帳簿について定められていた閲覧等拒否事由を株主名簿についても定めたのかということになります。しかし立法経過を見ると、法制審議会では、法125条3項3号は、実は入れることになっていなかったのです。それが何故か法案化の段階で入れられており、有力な学者からはこれは立法ミスではないかとまで言われています(江頭「株主に勝つ株主が勝つ」39頁)。立法担当者も具体的な立法理由は説明はしていません(「一問一答新・会社法」67頁)。

このような経過に照らすと、3号の範囲を限定する東京高裁の決定のような考え方ももっともそうなのですが、一方で、法125条3項を見る限り、文理解釈としては、上記のような主観的要件推定説というのはいかにも無理筋です。同項は明確に1号から5号までを並列して拒否事由として明記しているからです。また主観的要件推定説を採ると、それでは全く同じ文言になっている法433条2項(会計帳簿の閲覧等拒否事由)の解釈はどうするのかということも問題になります。同じ法律の中で、全く同じ文言を使っている二つの条文の解釈は、基本的には同じでなければおかしいでしょう。しかし会計帳簿について主観的要件を必要(又は推定)とするのは問題です。仮に請求の時に不当な目的を有していなくても、会計帳簿の写しを入手した後に気が変わってそれを不当目的に利用するという危険は大いにあるわけです。だからこそ従来主観的要件不要説が通説・判例だったわけです(参考東京高裁H19.6.27金融商事判例1270号52 頁)。

以上の通り、本号の存在は、会社法制定時から学説で問題とされてきている論点で、非常に難問です。一方で、この競争者による株主名簿の閲覧等請求に関しては、先のテーオーシー事件決定では逆にその制限の範囲を拡大する解釈がなされています(東京地裁H19.6.15資料版商事法務280号220頁)。今後、裁判所がどのような説に収斂するか予断を許さないところです。