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中村弁護士コラム 第40回

MBO(マネジメント・バイ・アウト)について

弁護士 中村直人

ここ数年、MBO(マネジメント・バイ・アウト)が増加するとともに、MBOにまつわるトラブルも急増しています。「マネジメント・バイ・アウト」というので、あたかも経営陣がその会社を買収するかのように錯覚しますが、今行われているMBOは、ファンドが90%以上出資するものばかりであり、買収者はファンドです。経営陣は、むしろ会社を「売却」する側です。ファンドも、買収する前はまるで共同買付者になるかのように説明をするから誤解を招くのですが、経営陣はたんなる雇われ経営者になるだけであって、MBO後は何をするのもファンドの勝手であることを認識しなければいけません。

ファンドは高利回りを達成しなければなりません。そのためなるべく短期間で売り抜けたいと思っています。しかしMBOをする前の説明では、4、5年かけてじっくり会社の経営改革を行うかのごとき説明をすることがあります。そうすると経営陣はそのようなスパンで物事を考えるわけです。しかしMBOをして一年も経つとファンドは売却の話を持ち出して来ます。そこで経営陣は「話が違う」ということになってしまうのです。

ファンドは、MBOの出口として、数年後には再上場するなどと説明することが多いと思います。しかし実際に再上場する事例はほとんどありません。ファンドの持つ90%以上の株式が売りに出ることが分かっていれば、株価は大幅に低くなってしまうに違いないから、再上場して市場で売り抜けるなどということはほとんど考えられません。その結果、ファンドは同業他者などに丸ごと転売することを考えます。そこでまた経営陣とは「話が違う」ということになってしまいます。敵対的買収を避けるためにMBOをしたのに、結局売られてしまったりするのです。

さらに日常の経営においてもしばしば経営陣とファンドは対立します。ファンドには、アービトラージュ型とバリューアップ型の2種類があると思われます。たとえばファンドは、MBOで買収後、資産の売却と配当により大幅に自己資本を圧縮することで一株あたりの理論価値を増大させることができます。そこで売却すれば、大きなリターンを得ることができます。典型的なアービトラージュです。しかしこれは財務的な操作に過ぎず、むしろレバレッジを効かせすぎることにより会社の経営基盤は脆弱になります。経営改革をするとき、経営者はよりよい製品をより安く作ることで売上高と利益を伸ばそうというバリューアップの発想を持ちます。しかしファンドは将来の売上高などといった不確実なものに頼って投資などしません。事業の理論価値は将来キャッシュフローの現在価値化ですから、一番確実なのはコストカットすることです。たとえば営業損益ベースで10億円コストカットしたとします。企業価値を仮に営業利益の10倍であるとすれば、このコストカットにより10億円の10倍の100億円の株式価値が生まれることになります。そこで転売すればよいのです。新製品の売上げなどどうなるか分かりませんが、コスト削減はやればできることです。だから徹底的にコストカットします。短期で売り抜けることが目的だからそれによって将来の成長力が阻害されることもいといません。そこで経営陣と大きく対立することになります。手を組む相手がバリューアップ型か、アービトラージュ型か、それを見極めなければなりません。

日本では、MBOをするとき、非公開化しないと適切な経営改革ができないから非公開化するのだ、などというという模範生的な説明がなされています。しかし欧米でMBOが行われる本当の理由は、アービトラージュにあると思います。つまり市場で安値に放置されている銘柄について、経営者がファンドと一緒になって買収し、高値で転売して利益を得ます。これは経営陣とファンドの個人的な利益獲得に過ぎず、会社のためではありません。既存の株主のためでもありません(むしろ既存の株主からの富の移転です)。本当に経営改革をすれば企業価値が上がるのであれば、今それをすればよいのであって、非公開化しなければならない理由はありません。MBOをするとき、何故非公開化するのかもっともらしい理由を探すのに四苦八苦している姿は、それが真実ではないことを示唆しています。

日本では、妙な建前論や小手先のトリックなどが渾然として、MBOは健全な世界ではなくなっているように思います。それが続発するトラブルの原因だと思われます。どこかおかしいと思いながら、釈然としないままMBOをするのは後悔を招くことになります。