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中村弁護士コラム 第41回

自己株式取得に関する最近の留意点

弁護士 中村直人

最近の株価の暴落を受けて、自己株式の取得が活発化してきています。日経新聞によれば自己株式取得枠の設定が過去最高ペースになっているとのことです(平成20年11月14日)。自己株式の取得は、理論価格より低い価格で取得すると残った株式の価値が向上することや、余剰資産を市場に返戻することで資本効率が向上することなどから行われるものです。最近の株安でその環境が整ってきたことが背景にあると思われます。なかには浮動株を吸収することで安定比率の向上を意識している会社もあるかも知れません。

市場が暴落しているときには、一つの有力な買い手として発行会社が注目される傾向があります。平成6年以降の断続的な自己株式取得禁止規制の緩和も、背景には当時のバブル崩壊後の市場の低迷がありました。今回の金融危機においても、金融庁は早速、自己株式取得規制の緩和に動きました。まずセーフハーバールールの緩和です。具体的には「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令の特例に関する内閣府令」を定めて、1.1日の買付数量の上限を1日平均売買高の 25%から100%へ引き上げることと、2.取引終了直前30分間の買付禁止時間の規制の適用留保を決めました。この緩和は、ささやかなことのようですが、実務的にはかなり利用されているようです。この特例は、平成20年10月14日から平成20年12月31日までの時限措置です。

また金融庁は、自己株式取得方法についてのQ&Aを公表しました(平成20年11月18日)。その内容は信託方式の自己株式取得に関するものです。自己株式の取得には、1.自ら証券会社に売買指図をして立会内取引で取得する方法、2.東証のToSTNeT 3などの立会外取引で取得する方法、3.信託会社の自己株式取得信託を利用する方法などがあります。この内、信託方式は、インサイダー取引規制に抵触しないよう信託銀行に自己株式の取得を委ねてしまう方式です。しかし最近信託会社によってその内容がかなり異なってきており、中にはインサイダー隔離になっているか不安なスキームもありました。たとえば、信託設定後にも中途の解約ができたり、契約締結後に重要事実が生じた場合には信託会社に伝達することになっているものなどがありました。そこでどのような要件を満たしていればインサイダー隔離になっているのか明確にするため、その要件を示しました。具体的には、 1.信託設定時に重要事実が存在しないことと、及び、2.信託設定後に委託者が売買の指示を行わないことが示されました。このQ&Aでは、それ以外にも、委託者が指示を行う場合であっても重要事実から隔離された部署が指示を行うものであればよいとしています。チャイニーズウォールを立てればよいということです。

従来、金融機関では厳格な情報管理態勢やインサイダー取引防止態勢が構築されてきました。しかし事業会社では、有価証券の取引を行うことはそれほど多くなく、情報の一元管理や取引部署の隔離(チャイニーズウォールの設定)などの態勢整備は行われてきませんでした。しかし最近では、インサイダー取引規制違反が続発しており、たとえば「子会社の解散」という重要事実が公表される前の自己株式取得がインサイダー取引に該当するとして高額な課徴金を命じられた事例も生じていました。そのため社内で重要事実が生じたときに備えて、自己株式取得手続を適法に行うための態勢整備が必要になっていました。具体的には、1.統一的な管理部署を設け、社内に重要事実が発生した場合には直ちにその管理部署にその旨を通知し、自己株式取得などの取引をすべて停止させる仕組みや、2.取引部署を完全に重要事実から隔離する仕組みなどです。ただし、後者の隔離の方法は、事業会社の自己株式取得の決定が最上位の決裁権者である取締役会の決定に基づいていることからすると、果たしてどこまでやれば適法なのか懸念が残っていました。

なお、「子会社の解散」については、平成20年の取引規制府令の改正で軽微基準が設けられることになりました(取引規制府令52条1項5号の2、平成20 年12月12日施行予定)。平成20年の金商法改正では、インサイダー取引規制にかかる課徴金の額も引き上げられており、自己株式取得の手続には十分な注意が必要です。