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中村弁護士コラム 第44回

上場会社の会社再編における反対株主買取請求時の買取価格について

弁護士 中村直人

合併その他の再編行為に際して、反対株主は、その株式の買い取りを会社に請求することができます(会社法785条1 項、797条1項、806条1項)。その価格については、会社法施行前は、その決議がなかった場合に有すべき価格とされていましたが、会社法では、その再編行為によってシナジー効果が生じ株式価値が上昇するのであれば、その点も加味して「公正な価格」を算定するものとされました。ただし再編によって企業価値が毀損される場合も考えられ、その場合には、その再編行為がなければ有していたであろう価格とすべきであるとされており、したがって、いずれか高い額ということになります。

その公正な価額の算定方法は、ケースによって考慮要素が異なってきます。ケースとしては、上場会社同士の合併等の場合、親会社による子会社の完全子会社化の場合、MBOの場合などがあります。独立当事者間契約といえる場合にはその交渉の結果形成された価格を尊重することが適切でしょうし、適切な開示が行われている場合には市場価格を基礎とするのがよいことになるでしょう。一方、経営陣に利害相反関係がある場合や適切な情報開示が行われていない場合、強圧的な要素がある場合などには、別途公正な価格がいくらであるか慎重に検討することになります。また再編行為は、1.何もない状況から、2.再編が公表された時点、3.再編に係る総会決議等がなされた時点、4.買取請求がなされた時点、5.再編の効力が発生した時点、と事態が進んでいきますが、理論的に何時の時点の価格が算定すべき価格なのかという問題と、その公正な価格を算出するために参照すべき市場価格はどの期間のものなのか、という問題があります。さらに、その反対株主が何時その株式を取得したのかということも考慮すべきでしょう。例えば公表後に株式を取得した者に対してその再編がなかりせば有すべき価格を保証してやるというのはおかしいということもあります。

この買取価格については最近いくつか裁判例が出てきました。まずレックス・ホールディング事件(最高裁H21.5.29)では、MBOの全部取得条項付種類株式の取得価格決定の事例ですが、公正な価格は、客観的な価値と強制的取得により失われる今後の株価上昇に対する期待を考慮した額であるとした高裁決定を支持しています。この事案はMBO以前の会社の業績下方修正の問題や、審理において会社側が事業計画や株価の算定書などの重要な証拠を提出しなかったことなどの事情もあって、特殊なケースになっています。日興コーディアル事件決定(東京地裁H21.3.31金融・商事判例1315号26頁)は、親会社による株式交換の事例ですが、それ以前に公開買付が行われていたため、その公開買付価格が下限とされたケースです。カネボウ事件決定(東京地裁 H20.3.14判例時報2001号11頁)は、非上場となった後の営業譲渡に際しての買取請求の事案ですが、鑑定意見に基づいてDCF法につき詳細な判示をしているので、その点では参考になります。三共生興事件決定(神戸地裁H21.3.16金融・商事判例1320号59頁)は、親会社が連結子会社を吸収合併した事案ですが、公正な価格の算定時期については買取請求が会社に到着した時点であるとし、また公正な価格については、その時点の市場価格であるとしました。さらに協和発酵キリン事件決定(東京地裁H21.4.17、同H21.5.13金融・商事判例1320号31頁)は、株式交換の事例ですが、公正な価格の算定基準日は株式交換の効力発生日であるとし、公正な価格については特段の事情がない限り効力発生日前1ヶ月間の終値による出来高加重平均価格が公正な価格であるとしました。

上場会社の再編行為を前提に考えると、最後の三共生興事件と協和発酵キリンの事件が参考になるものと思われます。

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