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中村弁護士コラム 第47回

役員報酬開示の影響

弁護士 中村直人

金商法・開示府令の改正で、有価証券報告書等の役員報酬の記載事項が大幅に変更されました。その中でも、役員報酬の個人別開示が義務づけられたことは、実務に重要な影響を与えるものと思われます。個人別報酬等については、「連結報酬等」として計算することとされており、主要な連結子会社の役員を兼務している場合にはその子会社から受領する報酬等も合算されます。但し、個人別開示は、総額1億円未満の者については記載しないことも可能です。適用時期は、平成22年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等からとされており、既に各社ともこの3月期の分はおおむね支払い済みですから、いわば抜き打ち的にこの3月期の分から開示を求められることになります。

この影響ですが、まず目先の影響としては、株主総会での対応があります。有価証券報告書を株主総会前に提出した会社は、もちろん総会の時点で株主は個人別報酬の額を知りうるのであり、その金額やその評価基準、算定基準等について質問や意見が沢山出されることが予想されます。また有報を総会後に提出する会社にあっても、総会直後に有報を提出すればわかる情報を総会で説明しないというのはとても無理ではないかと思われます。そうすると、個人別報酬について聞かれた場合、有報に個人別報酬の額を記載する会社では、総会でも説明せざるを得ないことになると思われます。

また全役員が1億円未満であって個人別報酬の開示をしない会社にあっても、質問がなされることは間違いなく、その場合、個人別報酬金額を言わない理由付けは難しくなります。従来は、「プライバシー」を主な理由にしていたわけですが、既に有報で原則全員の個人別報酬を開示することとなった以上、これは法定開示情報であって、プライバシーではあり得ないことになります。また、役員全員の報酬総額を開示しており、お手盛りであるかどうかはそれで判断できるからそれで十分であるという理由も言われましたが、個人別報酬の額が有報の記載事項となったことで、たんに総額において過大であるかどうかだけではなく、個人別に業績に見合った報酬であるかどうか、インセンティブのあり方として適切であるかどうかなどという点も、重要な投資情報であると認められたことを意味しますから、その理由だけでは説得力が乏しいと思われます。そうすると、合理的で説得力のあるお断りの仕方というのは至難の業ではないかと思われます。

個人別報酬が開示されると、各社横並びで、突出していないか、逆に安すぎないか、などということが気になるところでしょう。それは開示される本人だけではなく、社内の従業員も見ていますし、これから就職しようとしている人たちも見ています。単純にねたみ、やっかみを受けるから下げようというだけの要因ではなく、逆に優れた人材を集めるにはしっかり払っていることが重要だ、という方向になる可能性もあります。いずれにしても報酬金額の設定にも大きな影響が出ると思われます。

さらに開示する以上、その正当性を説明しなければなりませんが、報酬金額の正当性というのは、合理的に説明しようがない世界です。そうすると金額自体の正当性を直接説明するのではなく、決定プロセスの適切性を説明する方が明快です。そこで、社外役員を中心とした「報酬委員会」などを設置して、「その意見に従った」と説明する会社が増加するかも知れません。

日本の経営者の報酬金額は欧米に比較して非常に低廉であり、開示されれば、欧米の投資家は仰天するかも知れません。日本の経営者の報酬が低廉なのは、経営者も終身雇用制であるからです。それが日本の企業社会の根底にあります。もしこれを契機に、高額報酬を支給する会社が増加して、1期2年社長に在任すれば老後は遊んで暮らせるというような社会になれば、ガバナンス体制や、敵対的企業買収の是非などに対する日本企業の考え方も変わることになるでしょう。逆に、萎縮して役員報酬を下げる方向に流れれば、結果平等主義の益々活気のない経済体制になってしまうかも知れません。その意味で、今回の改正は世の中を変える分岐点となる可能性があると思います。