株式実務とガバナンスサポートの
ベストパートナー

東京証券代行は証券代行の専門会社です。
株主名簿管理人として株式実務や株主総会運営のアドバイスはもとより、
株式新規上場のお手伝いやコーポレートガバナンス全般にわたるコンサルティングなど、
お客さまを全力でサポートいたします。

  1. ホーム>
  2. 中村弁護士コラム>
  3. 中村弁護士コラム 第59回

中村弁護士コラム 第59回

新株予約権の行使条件の変更と新株の効力(最判平成24年4月24日)

弁護士 中村直人

全国保証事件において、最高裁は、発行後に取締役会で行使条件が変更された新株予約権の行使による新株発行を無効とする判断を示しました(最判平成24年4月24日。最高裁判所ホームページ参照。地裁判決は、東京地裁平成21年3月19日・金融・商事判例1317号30頁)。この訴訟は、社外監査役が提起したものであり、その点でも注目されています。

事案の経過ですが、この会社では、平成15年に、株主総会で旧商法の規定に基づいてストックオプションの発行決議をいたしました。そのとき、新株予約権の行使の条件については、取締役会にその決定を委任しました。この会社は、将来上場することを目指しており、行使条件にも、上場ないし店頭登録してから6か月を経過したら行使できるという条件が付されました(取締役会決議をした上、引受契約に記載した)。しかしその後、平成17年頃に税務調査が入ったことに起因して、上場の可能性がなくなってしまいました。そこで取締役会では、平成18年6月、上場という行使条件を廃止する旨決議し、直後に各人が新株予約権を行使して新株を取得したため、監査役が、その新株発行は無効であるとして提訴したものです。この会社は、株式に譲渡制限が付されています。地裁及び高裁の判決は、いずれも新株発行は無効であると判断しました。最高裁も同様です。

この判決は、いくつか重要な論点について判示しています。まず取締役会の決議で、行使条件(上場の要件)を廃止したことの有効性については、株主総会で一旦委任された事項を決定した後、新株予約権発行後に適宜実質的に変更することまで委任する趣旨ではない、として、変更決議は無効であるとしました。その理由は、譲渡制限会社においては、新株予約権の行使条件を変更することは、実質的には新たな新株予約権を発行したに等しく、株主総会の決議を要するべきであるからというものです。

この判示事項については、注意が必要です。旧商法の時代は、新株予約権の行使条件の決定を取締役会に委任することは可能であるという解釈が広くありました。しかし新会社法になってからは、公開会社が非有利発行を行う場合以外の場合について、会社法239条に基づき、株主総会が取締役会に発行を委任する際には、新株予約権の行使条件の決定を取締役会に委任することはできないと解されています(「Q&A会社法の実務論点20講」相澤他25頁以下)。このことは、最判においても、寺田判事が補足意見で述べています。現在の実務では、公開会社が非有利発行をする場合はもともと取締役会で決めるべきことですから問題はありませんが、ストックオプションを有利発行決議で行う場合は、会社法239条に基づく委任をすることになりますから、この点は注意が必要です。今でも行使条件の決定を取締役会に委任するとしている事例が散見されますが、行使条件の決定を取締役会に委任してしまうと、登記ができないという事例もあるそうです(なお、会社法239条1項1号の新株予約権の「内容」には、「行使条件」も含まれると解されています。)。

この判決は、旧法当時のもので委任が可能な時代の事案ですが、旧法当時に発行した新株予約権でも、会社法になってからはその重要な行使条件は変更できなくなったと理解した方が良さそうです(法廷意見は、委任の趣旨の解釈を理由に変更まで委任されていなかったと構成していますが、寺田判事の補足意見がそのように述べています。なおこれは非公開会社の場合です)。

またこの最判は、非公開会社において、株主総会の特別決議を経ないまま株主割当以外の方法による募集株式の発行がなされた場合は、無効原因になるとしています。これは新判断ではないかと思われます。以前、最高裁は、有利発行に係る株主総会決議がないまま発行された新株について、無効原因とはならないとしていましたが(最判昭和36年3月31日など)、株主総会決議の欠缺といっても、有利発行決議の要否の問題と、譲渡制限会社での総会決議の要否の問題は、別だということです。なお、会社法になってからは、有限会社法も取り込まれたことから、非公開会社においては無効としてよいのではないかと学説も指摘していました(江頭憲治郎「株式会社法第4版」713頁)。

そしてそれを踏まえて、非公開会社の新株予約権に重要な行使条件が付された場合に、それに反した新株予約権の行使・新株発行は、株主総会の決議がないまま新株を発行したのと同等であり、無効原因があるとしました。そして上場要件という行使条件は重要なものであって、それに反した本件の新株予約権の行使による新株発行は無効であるとしました。

本件は、非公開会社に焦点を当てた判例ですが、会社法239条で委任する場合に行使条件の決定を取締役会に委任できないとする補足意見など、上場会社にも影響するところがありそうです。

© 2012 Tokyo Securities Transfer Agent Co., Ltd. All rights reserved.

利便性向上、利用分析等のためクッキーを使用してアクセスデータを取得しています。
詳しくは「このサイトのご利用について」をご覧ください。オプトアウトもこちらから可能です。