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中村弁護士コラム 第63回

募集株式の不公正発行について

弁護士 中村直人

前回に引き続き、募集株式の話を致します。新株発行差止仮処分などがしばしば提起されています。どのような場合に差止になるかというと、主に@著しく不公正な場合と、A有利発行の場合です。今回は前者について解説します。会社法では210条2号、改正前商法では280条ノ10にその条文がありました。そこにはただ「著しく不公正な方法」とだけ書いてあるのですが、それはどういう場合をいうのでしょうか。

同条は、戦後昭和25年の改正でアメリカ法を参考に作られました。アメリカでは「不公正な方法」とは、@会社の支配権奪取目的の場合、A株主の権利を不公正に変更する場合、B正当な理由なく発行価額を差別した場合等をいうとされていましたが、日本ではAとBは法令違反になるので、著しく不公正として残るのは@の場合だとされました(矢沢惇「企業法の諸問題」103頁)。アメリカ法ではこの3つは例示に過ぎなかったのですが、この論文以来、日本では、著しく不公正な方法=支配権奪取目的と等視されるようになりました。本当は「目的」は「方法」ではないですし、これだけでは理論的な説明にはなっていません。理論的には、取締役が自己の支配権を確保する目的で新株発行をすることは、自己の利益を図る行為であり、忠実義務に違反することです。ですので、支配権奪取目的=自己の利益を図る行為=忠実義務違反=著しく不公正な方法という論理の流れになるはずです。しかしそのことは永らく忘れられていました。

実務では、戦後ずっと主要目的ルールというルールが裁判例を支配していました。それは、「資金調達目的は正しい目的で適法・支配権奪取目的は不当な目的で違法、複数の目的がある場合は主要な目的が不当な目的であるかどうかで判断する」というルールです。資金調達目的というのは、会社の利益を図る目的であり、忠実義務に違反しませんから、確かに著しく不公正な方法にはなりません。しかしこのルールは主観的な「目的」というものを要素にしてしまったので、複数の目的が存在することは避けられません。その場合どうするかが問題となります。法文は「著しく」不公正な場合だけを差止の対象にしています。裏返せば、多少不公正でもいいのです。そこで主要な目的が不当目的であれば「著しく不公正」であるが、主要な目的が真っ当な目的であれば、少々不当な目的があっても「著しく」不公正とまではいえない、という解釈をしたのです。

しかし本当のポイントは、@目的が何であるかは、「著しく不公正な方法」のいち事例に過ぎないこと(他にも著しく不公正な方法はあり得ること)、A支配権奪取目的は忠実義務に違反するから著しく不公正となること(逆に忠実義務に違反しなければ不当目的ではないこと)、B資金調達目的は正当な目的であるが、それだけが正当な目的であるわけではなく、他にも正当な目的はいくらでもありうること(両者を等視してはいけないこと)、です。

さて、主要目的ルールは、そういう理屈で裁判例を支配してきたのですが、しかし実務的には資金需要などいくらでも作り出せますから、「資金調達目的が存在しない」という立証はまず不可能です。そうすると株主側では、不当な目的があるというだけではなく、どの目的が「主要」であるかまで立証しないといけなくなるのですが、そんな証拠などあるはずがありません。それは心の中の問題だからです。その結果、主要目的ルールは、理屈の上ではもっともそうなのですが、現実にはほとんど差止を認めない結果になります(たとえばベルシステム24事件東京地裁平成16年7月30日判例時報1874号143頁など)。

そのような中、大きな波紋を投げかけたのが、ニッポン放送事件(東京高裁平成17年3月23日判例時報1899号56頁)です。それまで正当な目的は資金調達だけで、会社支配権の奪取は即、不当な目的だと思われていたのが、この事件で会社側は、正面から「資金調達目的はない、敵対的買収者が支配株主になると企業価値を下げるから持株比率を下げて企業価値の毀損を回避するために新株予約権を発行した」と主張しました。こんな事例は初めてで、みんな驚いたのですが、高裁は、原則として経営者の支配権の維持目的は著しく不公正な方法にあたるが、株主全体の利益の保護のため特段の事情がある場合には、支配権維持目的も不公正発行にならないことがあると判示しました。これは単純に支配権維持目的・即・不当な目的ということではなく、本当は、会社の利益ためなのか、取締役個人の利益のためなのか、という点が重要だということです。

この判決が出て以来、主要目的ルールはいったい生き残っているのかということが注視されました。主要目的ルールは、単純な資金調達目的=正当目的・支配権維持目的=不当目的という図式であったため、この判決で必ずしもそうではないということになったからです。

しかしその後の判例を見ていると、主要目的ルールは今でも生きている、あるいは棲み分けをしている、ということがいえるかと思います。なぜかというと、実務的には、その後の事例は、いずれも会社側が「資金調達目的である」と主張したからです(昭和ゴム事件、オープンループ事件、丸八証券事件等)。会社が資金調達目的だ、というのであれば、もし支配権維持目的があればそれは会社のためではなく自己の保身のためとみて良く、そうであれば従来の主要目的ルールで判断すれば足りるということになるのです。したがって、再び「企業価値のために支配権維持目的で発行した」と主張するような事例があればニッポン放送事件のような判断基準に従い、資金調達目的であると主張すれば主要目的ルールに従う、という棲み分けになったのです。最近では、ESOPで付与するという目的は、従業員の士気を高めてコーポレート・ガバナンスの向上を目的としたもので真っ当な目的であると判断した事例があります(ダイヤ通商事件東京地裁平成24年7月9日金商1400号45頁)。これも資金調達目的だけが正しい目的であるわけではなく、企業価値向上のためであるかどうかが判断基準であることを示しています。

なお最近では主要目的ルールにも少し変化が生じてきました。それはクオンツ事件の東京地裁判決なのですが(平成20年6月23日金商1296号10頁)、この判決は、種々の事情を認定して、支配権に争いがある状況下で第三者割当増資をすることは経営者の支配権維持を主要な目的としているものと推認させる、という判示をしました。このような「推認」をし始めると、同じ主要目的ルールといっても、結論は全く変わってしまいます。従来の主要目的ルールでは、株主が「主要」であることの立証ができずに敗退していたのですが、支配権に争いがあれば「推認」がなされるのであれば、逆に殆ど勝ててしまうからです。したがって、このクオンツ判決は、従来の主要目的ルールと似ているようでまったく違うものという理解も可能です。

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