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中村弁護士コラム 第65回

課徴金事例集に見るインサイダー取引規制の留意点

弁護士 中村直人

今年の8月に証券取引等監視委員会から「課徴金事例集〜不公正取引編」が公表されました。その中で参考となる事例を取り上げてみます。

まず事例集18頁に、大型公募増資に係る事例が掲載されていますが、この事例は、やや読みにくいかも知れません。金商法166条1項を見ると、4号に、契約締結者・交渉者の類型が定められています。この中には、「その者が法人であるときはその役員等を・・・含むという」というかっこ書きがあります。一方、別途、5号が定められており、「4号で法人であるものの役員等」というものが定められています。一見、二重に規制されているかのようです。これはどういうことなのでしょう。

ある上場会社X社があり、そこと株式引受契約の交渉をしている会社Y社があったとします。Y社で交渉を担当しているのは、A取締役であるとします。Y社には、別の部門を担当しているB取締役がいたとします。まずA取締役は、X社から、株式募集の重要事実を聞きました。金商法166条1項4号を見ると、契約締結交渉者が、その交渉に関して重要事実を知ったときは、当該上場会社等の特定有価証券等の売買等をすることができません。よく考えると、X社と契約交渉をしているのは、Y社であって、A個人ではありません。A自身は契約締結交渉者ではないのです。しかしそれではAに規制がかからないのかというと、それはおかしなことですから、同項4号は、かっこ書きで、「法人であるときはその役員等を・・・含む」としました。その結果、A取締役は、契約締結交渉者という4号の会社関係者となります。そのため、4号の定める情報の知り方、すなわち契約の交渉に関して知ったときは、取引を禁止されることになります。

次にBはどうでしょう。Bは、Y社の取締役会の報告でX社の株式募集の事実を知ったとします。B取締役は、Yの役員等ではありますが、4号で規制されるのかというと、4号は、「契約の交渉に関して知った」場合を規制しています。B取締役は、Y社の取締役会で知っただけで、X社との契約交渉担当者ではありませんから、「契約締結交渉に関して知った」わけではありません。それではどうするのか?規制されないのか?実は、5号はこの場合のためにあります。5号は、契約締結交渉者である4号の当事者の役員等が、「その者の職務に関して知った場合」を規制類型として定めています。これがあるので、B取締役は、会社の職務に関して重要事実を知りましたので、5号の会社関係者として、取引を禁止されるわけです。Yの役員等は、みな一体としてみるわけです。

よく考えてみると、このようなことをしなくても、B取締役は、取締役会でA取締役の報告で知ったというなら、情報受領者(同条3項)として取引を禁止されるのではないかという疑問が生じます。それはその通りです。しかし5号を定めることで違ってくるのは、その情報を更にB取締役から聞いた人が規制されるかどうかということです。たとえば、B取締役が、友人のCさんにその事実を伝達したとします。もしB取締役が情報受領者であるとすると、情報受領者は、第1次情報受領者しか処罰されませんから、Cさんはセーフになってしまいます。契約交渉者の役員から聞いたのに、第2次情報受領者となって処罰されないのはどうかと思います。そこで5号があると、B取締役は、情報受領者でなく、会社関係者となりますので、そこから聞いた人は皆処罰の対象になるわけです。さらに、Y社内で順次情報が伝達された場合、最初の情報受領者しか処罰されないというのではおかしいですから、社内での伝達は全部処罰対象にすべきです。そこで5号でみな職務に関して知ったら会社関係者としているのです。

課徴金事例集には、以上の他、情報の伝達について、客観的な状況から知り得たはずだ、というようなことで違反が認定される事例があったり(31頁)、バスケット条項を課徴金に適用したり(40頁等)、どんどん処罰範囲が広がっている印象があります。更に今回の金商法改正では、情報の伝達や取引の推奨が禁止されました。今は、アベノミクスで株価の変動期に突入していますので、各社、インサイダー取引規制違反が生じないよう、細心の注意が必要です。

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