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中村弁護士コラム 第71回

平成26年会社法改正(3) 〜株式等売渡請求(キャッシュ・アウト)

弁護士 中村直人

改正会社法では、株式等売渡請求の制度が設けられました。従来からも、現金交付の株式交換や全部取得条項付株式を利用して、キャッシュ・アウトをすることは可能でしたが、かなり手間暇がかかることや、やや制度の流用的な使い方でしたので、正面からキャッシュ・アウトの制度を新設することにしたものです。

制度の概要ですが、株式等売渡請求というのは、対象会社の特別支配株主は、その対象会社の他の全株主から、その株式の全部を売り渡すよう請求することができる、というものです。一種の形成権で、行使されると売買契約が成立します。全株式が対象なので、一部の種類の株式だけ取得するというのはできません。

特別支配株主というのは、自己及び完全子法人と合算して、その会社の議決権の10分の9以上を有している者です。議決権ベースです。他者との合算はできません。対象会社には特に制約はなく、株式に譲渡制限の付いている非上場会社も対象になります。株式の売渡請求をするときは、新株予約権の売渡請求も附随してすることができます。なお、新株予約権は、あくまでも株式の売渡請求に附随するものとしてだけ売渡請求ができる仕組みとしており(会社法179条2項)、対象会社も新株予約権の売渡請求だけ承認することはできないし(会社法179条の3第2項)、撤回するときも株式だけ撤回することはできません(会社法179条の6)。

売渡請求をするときは、特別支配株主は、対価の額やその算定方法、取得日などを取り決めて(会社法179条の2)、対象会社に対してその通知をします(会社法179条の3第1項)。対象会社は、取締役会でこれを承認するかどうかを判断します。この際、売渡請求の条件が適正であるかどうかや、きちんと対価が交付される見込みを確認しないといけないとされています(平成26年6月19日参議院法務委員会での法務大臣答弁)。ここがポイントです。売買契約は、売渡株主と、支配株主の間で成立するものであって、対象会社は本当は何の関係もありません。しかし対象会社が是非の判断をする仕組みとしたのです。対象会社が、これを承認すると、特別支配株主にその旨通知するとともに、取得日の20日前までに売渡株主に一定の事項を通知します(会社法179条の4)。これによって売渡請求の効果が発生します(会社法179条の4第3項)。支配株主による売渡請求なのに、売渡株主にその通知をするのは対象会社です。そして取得日に、株式の移転の効果が発生します(会社法179条の9第1項)。結局期間の制限はこの20日だけなので、事実上の準備を除けば20日あまりで手続きが完了します。

不満がある株主は、価格決定の申立ができます(会社法179条の8)。また、法令違反・著しく不当な対価等の場合には差し止めの請求ができます(会社法179条の7)。取得無効の訴えも創設されました(会社法846条の2)。取締役に義務違反があれば、その責任を追及することも考えられます。

さて、この制度のポイントは2つです。1つは、従来の方法と比較して、こちらの方法が利用されるのかという点です。筆者が気になるのは、新株予約権の取扱いです。従来のスクイズ・アウトでは、新株予約権を1個1円で取得するというようなものが多くありました。しかし1円という対価は、適正な対価なのか、それを承認してしまって取締役の善管注意義務違反にならないのかという懸念があります。また会社法179条の7第1項第3号が「対象会社の財産の状況」を挙げているので、PBRが一倍未満の場合なども少し心配です。

もうひとつは、取締役の義務の名宛て人です。キャッシュ・アウトは、会社から見れば株主が異動するだけで、本来いくらで売ろうと買おうと、会社には関係がないことです。それを適正かどうかなど見なければいけないということになると、義務の名宛て人は株主ではないのかという議論ができます。これは従来取締役の義務の名宛て人は会社であるとしてきた解釈に風穴を開ける可能性があります。そうするとアメリカ的な株主主権の考え方が法的にも登場することになります。金商法では既にそのようになっておりますが、会社法の本体にこういう条文が入ってくることは、大きな影響があります。

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