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中村弁護士コラム 第73回

平成26年会社法改正(5)〜多重代表訴訟の創設

弁護士 中村直人

改正会社法では、多重代表訴訟の制度が導入されました。多重代表訴訟というのは、会社の株主が、子会社の役員に対して代表訴訟を提起できる制度です。その役員が所属している会社が自ら責任追及訴訟を提起せず、またその株主である親会社も責任追及をしない場合、子会社等の役員の責任は適切に追及されなくなるということを懸念した制度です。背景には、純粋持株会社などが解禁され、上場している親会社では事業を行わず、事実上、事業上の失敗について責任を追及されにくくなっているとの指摘がありました。

子会社等での役員の業務執行の適正性確保のためには、もし失敗があった場合に、多重代表訴訟制度を設けて親会社株主が直接子会社等の役員を訴えるという方法もありますが、親会社の役員に子会社管理責任を負担させて、子会社等に問題があれば親会社役員の管理責任を追及する、という選択肢もあります。今回の改正では、親会社の子会社管理責任についても、それを強化する改正が行われています。

多重代表訴訟の要件ですが、まず提起できる株主の要件として、ある会社X社の「最終完全親会社等」の100分の1以上の議決権または株式を保有する株主であることが必要です(会社法847条の3第1項)。その株式の保有期間は6か月以上前からです。「最終完全親会社等」というのは、@X社の完全親会社またはAX社の株式を他の株式会社及びその完全子会社等若しくは完全子会社等が保有する場合の当該他の株式会社をいいます(同条2項)。

追及できる責任は、「特定責任」とされています。「特定責任」とは、責任の原因となった事実が生じた日において、最終完全親会社等及びその完全子会社等におけるX社株式の帳簿価格が当該最終完全親会社等の総資産額(省令で定める)の5分の1を超える場合の、その責任をいいます。要するに、親会社の総資産の20%以上を占める簿価になっている子会社だけに限定しているということです。またその縛りは、責任が発生した時点で見るということです。実務的には、内部統制システム構築義務違反など、時点の曖昧な過失が問題となりますから、責任原因の「事実が発生した日」といわれても、その判断は困難でしょう。

提起の手続は、提訴しようと思う株主は、X社に対して、提訴の請求をします。最終完全親会社等に対してではありません。最終完全親会社等の株式が振替株式であった場合、個別株主通知は不要と解されています。訴訟係属中継続して完全親子関係であることが必要です。

実際には、簿価の20%を超えるような大規模な子会社の事例は少なく、また提訴株主は1%以上の株式を保有していなければなりませんから、大企業ではなかなか提訴できる株主はいないでしょう。同族企業や非上場企業の場合、あるいはアクティビストのような投資家の場合などが考えられるかも知れません。

実務対応ですが、まず該当する子会社では、提訴請求があった場合のマニュアルを作成しておくことが必要です。責任の有無の調査の他、株主であることの確認の段取りや、濫用的な株主ではないかといった事項については、親会社と連携することも必要でしょう。D&O保険の対象も、子会社役員にまで拡大しておくことが良いでしょう。

別の視点ですが、この制度ができたため、特定責任の免除のためには、X社の総株主の同意の他、最終完全親会社等の総株主の同意も必要になります。M&Aで関係会社を売却するときに、免責の手続きを採ることがありますが、本条の責任となっている場合には免責の手続に留意が必要です。ビークルを重ねて対象事業を保有している場合など慎重に確認する必要があります。

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