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中村弁護士コラム 第75回

平成26年会社法改正(7)〜内部統制の運用状況の記載方法

弁護士 中村直人

会社法施行規則の改正で、事業報告において「内部統制決議の運用状況」の記載が始まっている。実務では、何を書いたらいいのか、迷っているようである。

規則は、「法362条4項6号についての決議があるときは、その決議の内容の概要及び当該体制の運用状況の概要」を記載せよといっているのみである。法務省の解説では、「たんに「当該『業務の適正を確保するための体制』に則った運用を実施している」というだけの記載は、通常は「運用状況の概要」の記載とは言いがたい」とする(意見募集の結果)。また、各社の状況によってさまざまであり、内部統制に関する委員会の開催状況や社内研修の実施状況、内部統制・内部監査部門の活動状況等を記載することも考えられるとしている(旬刊商事法務2061号21頁)。こういう不特定で抽象的な記載事項は、常識的に考えて普通の記載をしておけば足りるのであって、あまり厳密に「どこまで書かなければならないか」などと適法・違法の境界線を探ることに意味はない。「最低限何をすれば良いか」という昔ながらの総務的な発想は適合しない。そういう心配は無用である。

要点を少し述べるならば、まず連結ベースなのか、単体ベースなのか、という話を聞く。本号は規則118条2号の記載であって、その会社についての記載事項である。規則120条2項のような連結ベースの規定があるわけではない。それでは単体ベースかというと、もともと本号は「362条4項6号の体制」の運用状況についての記載である。会社法362条4項6号の内容は規則100条等が定めている。それを見ると、なにやら連結ベースのような項目が並んでいるが(規則100条1項5号、3項4号)、それでは連結ベースの内部統制体制の運用状況について書くのかというと、それはそういう意味ではない。これはグループ各社(子会社)の内部統制の体制を指しているのではなく、当該会社(親会社)側の体制を指している(旬刊商事法務2060号5頁)。その会社の取締役会決議で決定できるのは、その会社の体制だけだからである。したがって、あくまでも当該会社の体制について、その運用状況を記載すれば良い。もちろん実際には境界は曖昧かも知れないし、グループ全体のことを記載して悪いわけではないので、グループ全体の運用状況を記載するのも構わない。

開示されている具体的な記載事例を見ると、内部統制の決議に対応させて、項目ごとにその運用状況を記載する方法と、全体を総括して記載する方法が見受けられる。どちらでも良い。分量も決まりがあるわけではない。たくさん書いている事例もあればほんの数行の事例もある。そこに書いていないからといって、株主代表訴訟のときに、それ以外の主張ができなくなるわけではないから、そういう心配はいらない。

内容も、およそ何を書いても問題はない。もともと会社法362条4項6号の体制には、コンプライアンスやリスク管理の体制だけでなく、効率性の体制まで含まれているから、およそ会社の事業活動のほとんどすべてがこれに含まれるのだ。

さて、法的な枠組みはそうであるとして、実際どうすれば良いか。内容は、コンプライアンスやリスク管理、効率性、監査役関係、文書管理等、様々であるから、総務部としては、それぞれの所管部署に今年一年間でやったことなどを報告してもらい、それを適宜まとめれば良い。記載する事項に困ったら、コンプライアンス担当部署が今年した活動(研修やコンプライアンス・プログラム、マニュアルの作成その他)、内部監査部門が今年した活動(何社・何事業部門に監査に行ったなど)、リスク管理部門の活動状況(リスクのコントロールとして何をしたかや、BCPの策定など)、組織変更等の経営改善活動(これも効率性の項目にあたる)などを拾い出せば良い。もし不祥事があれば、それについての対応などは重要であろう。毎年同じことを書いていたのではPDCAを回していないといわれそうであるから、その年にやったことをきちんと書いていくべきであろう。

なお、本項は、事業報告の記載事項であるから、記載すれば当然それは株主総会での説明義務の対象となる。それを考慮すると、いわゆる管理情報や内部通報などセンシティブな情報は、株主総会で具体的に説明できないことも多いので、あまり詳細に記載することは避けた方がいいかも知れない。

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