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中村弁護士コラム 第78回

任意の指名・報酬委員会設置・運営の留意点

弁護士 中村直人

CGコード補充原則4-10@を受けて、任意の指名・報酬委員会を設置する会社が急増している。指名・報酬委員会は何のために設置するのであろうか。「CGコードに書いてあるから設置した」というのでは身もふたもない。指名委員会に焦点を当てて少し真面目に考えてみよう。

指名委員会というのは、経営者である社長らの選任手続きに関わるものである。社長選任手続の目的は、当然ながら、企業価値を向上させることができる者を選任したい、ということである。各社には、経営の基本方針があり、それに基づく経営計画がある。その経営計画を達成するためには、どういう能力を有する人物が経営者にふさわしいかという、あるべき経営者像がある。行動力が必要だとか、新しい事業を作り出す感覚が必要だとか、廉潔性が必要だとか、多数の項目に亘る。他方、経営者候補としては、社内の人材、場合によっては社外の人材があり、彼等の能力を評価し適任者を探す。もし再任であれば、彼が経営計画に定めるミッションを十分達成できているかが判断基準になる。それを判断する責任は取締役会にある(CGコード原則3-1、原則4-3、補充原則4-3@など)。この考え方は、とても客観的で論理的である。

このCGコードの考え方は、従来の実務と違うのか?従来の実務では、現社長が頭の中で次期社長を考え、決定し、決算取締役会で「次期社長は○○君にしたいと思う」といって、決まりである。これは一見、上記のCGコードのプロセスとはまったく異なっているように見える。しかし、本当にそうか?これまでも、会社の状況や事業環境に応じて、現社長は、今後の会社の舵取りをしていくのにふさわしい人物を選んでいたのではないか?そうすると違うのは、結果としての判断や選抜基準ではなく、その思考過程を指名委員会で開示してチェックするというプロセスということになる。

そうすると、指名委員会の職務は、上記のような会社の経営方針等からあるべき経営者像を想定し、それに合致する者を選任する、または経営計画の達成状況で再任の可否を判断するという、そういうプロセスを検証することである。そのためには、今後の会社の経営環境をどのように想定するか、順調に成長を続けるか、それとも事業環境が極めて厳しくて他の事業に転換しなければならないのか、M&Aで成長するのか、新規事業の開発に注力するのか、等々の見通しに基づき、どういう人が次期社長になるべきか、M&Aに長けた人か、新規事業を見いだす力がある人にするか、社内の融和に適した人か、などという理想像があって、そして候補者達の要求される要件・能力の各評価を見て、適切な思考プロセスで選ばれているかを確認する。それが社外役員、ひいては指名委員会の仕事である。一部に、社外取締役が社長選任の決定権を有するのかとか、社長候補者のノミネートを社外者ができるのかといった疑念が呈されているが、そのようなことは目的ではない。現社長が次期社長を選任するときに、合理的な思考過程と手続を経ているかどうかということが分かれば良い。その際、会社の経営方針やあるべき経営者像は取締役会全員で共有すれば良いが、各候補者の評価は機微情報である。この開示はごく少数に留める必要がある(取締役会にはその候補者達もいるのだ)。だから、現社長と少数の社外取締役だけで指名委員会を開く意味がある。

以上の通りであるとすると、従来の実務と違うのは、ある者が次期社長に適任であるということを判断するための適切な情報が指名委員会で提供されたかどうかである。社外役員がしっかり善管注意義務を果たしたかどうかも、その情報の質量の適切さで判断される。それが鍵だ。

ちなみに、従来、誰が社長になるかというのは極めて高度な経営判断であって、それについて義務違反が生じるなどということは考えられなかった。しかし、セイクレスト事件判決(大阪高裁H27.5.21判時2279号96頁)は、不適切な代表取締役の解職を勧告しなかったことが監査役の義務違反だとされている。危機的状況では重い義務になるのである。

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