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中村弁護士コラム 第79回

会社法研究会報告書と会社法改正動向

弁護士 中村直人

本年3月2日に公益社団法人商事法務研究会の会社法研究会から「会社法研究会報告書」が公表された。平成26年会社法改正の際、同附則25条で、施行後2年を経過した場合に、「社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の変化等を勘案し、企業統治に係る制度の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは」、所要の措置を講ずるとされていた。同改正は平成27年5月1日施行であるから、もう施行後2年を迎える。すでに法務大臣から法制審議会に対して諮問第104号が出されており(その内容は「近年における社会経済情勢の変化等に鑑み,株主総会に関する手続の合理化や,役員に適切なインセンティブを付与するための規律の整備,社債の管理の在り方の見直し,社外取締役を置くことの義務付けなど,企業統治等に関する規律の見直しの要否を検討の上,当該規律の見直しを要する場合にはその要綱を示されたい。」である。)、本年2月9日の法制審議会総会で、「会社法制(企業統治等関係)部会」を設置することが決まっている。

上記研究会報告は、民間の研究会の報告であり、直ちに法制審議会と法的な関係性はないが、会社法・商法改正の際に事前にこのような研究会で審議や論点整理をし、それが法律改正の下地となることが時折ある。今回の研究会報告も、そのメンバーからして今後の部会の審議に重要な影響を与えるものと推測される。

法制審議会総会での担当官の説明では、「第1に,株主総会に関する手続の合理化として,株主の個別の承諾を得ることを要せずに,インターネットを利用して事業報告や計算書類等の株主総会資料を株主に提供することを可能とするための制度を新設する必要性等が指摘されております。また,近年,株主提案権が濫用的に行使される事例が見られるようになったことを受けて,株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の導入を検討すべきではないかという指摘もございます。
第2に,役員に企業価値を向上させる適切なインセンティブを付与するための規律の整備として,役員報酬の決定方針等について透明性を高め,あるいは株主の関与を可能とすべく役員報酬に関する規律を見直すことが相当であるという指摘等がございます。また,役員に対する責任追及等に関し役員が要した費用等の株式会社による補償や会社役員賠償責任保険につきまして,現在の会社法には規定がございませんので,これらに関する規律を整備する必要性等が指摘されているところでございます。
第3に,社債の管理の在り方の見直しとして(以下省略)・・。
そこで,(中略) 法制審議会の御検討をお願いするものでございます。」とされている。

最近、最高裁が実務のルールを尊重する姿勢を示し(たとえば最判平成28年7月1日最高裁民事判例集70巻6号1445頁)、また「コンプライ・オア・エクスプレイン」でしかなかったCGコードが実務への絶大な影響力を示したこともあって、いわゆるソフトローが花盛りである。今回の改正に関しても、株主総会の電子化等に関しては経産省の「株主総会プロセスの電子化促進等に関する研究会」報告があり、会社補償やD&O保険の保険料負担等についても経産省の「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」報告があり、役員報酬に関しては経産省産業組織課が「「攻めの経営」を促す役員報酬」などを公表している。これらの震源地は、閣議決定された「日本再興戦略」(改訂2014から2016まで)や、日本経済再生本部と未来投資会議、そこで審議される「産業競争力の強化に関する実行計画」(2016、2017年版)等である。

一方で、法律によらず、従前の法解釈を変更または創造していくような手法は、危うい面もある(例えば、弥永真生「リストリクテッド・ストックの法的陥穽」ビジネス法務2017.4、50頁等)。

今回の改正は、官主導でガバナンスを変更して企業活力を向上させようという国の方向性と、実務で困っている事項の改正という方向性、そしてソフトロー乱立の時代に法的ルールの本質の見極めが必須であるとする学会の動向が折り重なっていると思われる。

なお、現在CGコードをきっかけにガバナンスが劇変中の経済界にとって、今回の改正は問題点の整理であり、大きな流れを変更するものではない。企業実務家にとっても、直ちに大きな影響があるのは総会関係書類の電子化くらいである。実務にとっては「○○研究会報告」があちこちにあり、また役員報酬など選択肢が多様化しすぎた時代に、一度一呼吸して足元を見つめ直す契機となろう。

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