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中村弁護士コラム 第81回

社外役員の責任

弁護士 中村直人

最近、著名な大企業による不祥事が続いています。日産自動車、神戸製鋼所、三菱マテリアル、東レ等、いずれも長期間継続する問題行為の事例でした(法令違反や善管注意義務違反のケースもあるようですが、たんなる契約違反の事例もあるようなので、ここでは問題行為とだけいっておきます)。また、社内でその事実が発覚した後も、長期間公表しないでいた事例も複数見受けられましたし、公表後にも問題行為が継続している事例もありました。これらのエクセレント企業には、当然社外役員が沢山います。コーポレートガバナンス・コードを機に、一気に社外役員の数が増加しましたが、彼等はこういう問題が発生したとき、どういう責任を負うことになるのでしょうか。

実務的な区分でいうと、役員の責任は、自ら意思決定をしたことについての責任と、社内で違法行為等が発生した場合の責任の二種類に分類できます。前者は、たとえば投資をしたけど失敗した、などというケースです。この場合には、いわゆる経営判断の原則の適用があり、アパマン事件最判1は、「・・・このような事業計画の策定は、・・将来予測にわたる経営上の専門的判断にゆだねられる。・・・株式取得の方法や価格についても、・・・総合考慮して決定することができ、その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではない」としました。実務的には、判断の前提事実の認識に重大かつ不注意な誤りがないことと、その判断の過程及び内容が著しく不合理でないことという2つの要件に分けて判断しています。

他方、社内で違法行為等が発生した場合については、@当該違法行為の発生を予見できた場合は、それを差し止めるべき監視義務があり、それをしなければ監視義務違反となる、というルート(個別具体的な監視義務違反)2と、A内部統制システムの構築・運用義務に違反していないかというルート(一般的な義務違反)の2つの要件をクリアしないといけません。Aについては、すでに日本システム技術事件最判3があり、どの程度の内部統制システムを構築しなければならないかについては、「通常想定される架空売上げの計上等の不正行為を防止し得る程度の管理体制」を整えなければならず、また運用に関しては、「本件不正行為の発生を予見すべきであったという特別な事情」があれば、対処すべき義務が生じるとしています。

実際の裁判例ではいろいろなケースがあります。まずセイクレスト事件4では、代表取締役の違法行為に関し、社外監査役らが様々な活動はしていたのですが、取締役会に対して代表取締役の解職を勧告しなかったことが義務違反であるとされてしまいました。著名な大和銀行事件5では、ニューヨーク支店での違法行為に関して、そこに往査したことがある監査役にそれだけで義務違反が認定されています。

アーバンコーポレーション事件6では、新株予約権付社債の発行決議に際して、臨時報告書の虚偽記載がなされた事案について、その取締役会に出席した取締役は義務違反とされ、欠席した取締役は義務違反がないとされたこともあります。

他方、社内で問題行為があっても、内部統制システムを構築していれば、信頼の原則が適用されるとして、担当外の役員には義務違反が認められなかったケースも沢山あります7。著名なオリンパス事件8では、社長の問題指摘に対して、いまだ疑念を抱くべき状況になく、「特別な事情」は認められないとされています。

最近の相次ぐ偽装事件で心配なのは、直ちに違法行為を止めさせて公表しなかったことです。ダスキン事件9では、食品に違法な添加物が使用されていた事案について、社内で調査委員会等を設けて対応はしたけれども公表はしなかったことについて、義務違反が認定されました。ここでは裁量の余地は認められていません。これは食品会社に特有な判決なのかどうかが問題です。社内不祥事の発覚時には、関与していなかった役員達もその事実を知ることになります。知ったのにその行為を止めさせなければ、それが義務違反になりますし、公表すべきものを公表しなければやはり義務違反になります。社外役員にとっては、不祥事を事前に知ることはほとんど考えられませんが、しかし不祥事を知った後の対応を間違えると直ぐ責任に結びついてしまうのです。

                                                           

1最判平成22年7月15日民集234号225頁
2たとえば大阪地裁平成27年12月14日判時2298号124頁
3最判平成21年7月9日裁判集民事231号241頁
4大阪高裁平成27年5月21日判時2279号96頁
5大阪地裁平成12年9月20日判時1721号3頁
6東京地裁平成24年6月22日金法1968号87頁
7石原産業事件大阪地裁平成24年6月29日資料版商事法務342号131頁等
8東京地裁平成29年4月27日資料版商事法務400号119頁「第2事件」
9大阪高裁平成18年6月9日判タ1214号115頁

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