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中村直人弁護士および仁科秀隆弁護士によるコラム 第82回

自社株対価による企業買収

弁護士 中村直人
弁護士 仁科秀隆

ここ数年、日本企業による外国企業の大型買収のニュースが多く報じられています。中でも最近、武田薬品によるシャイアーの買収提案が話題ですが、報道によると、武田薬品は買収の対価の一部として同社の株式を用いる予定のようです。

これまで日本では「買収」というと現金を対価とするもので、株式を対価とするのは合併等が通常でした。

しかし、現金対価の買収の場合、借入金が巨額となって財務状況が悪化し、それに伴って株価や格付けも下落するおそれが生じます。一方、自社の株式を対価とすればそのような懸念はなく、またその結果として買収額を現金対価の場合より高額にできるため、被買収企業側により魅力的な買収提案をすることも可能になります。このような点を背景に、特に欧米企業による買収では対価として自社株が積極的に活用されています。

そして日本でも、自社株対価による企業買収が禁止されているわけではありません。例えば日本の上場会社が被買収企業となるケースでは、手段として公開買付け(TOB)が用いられますが、TOBは株式を対価として行うことも可能です。

また、会社法上、株式を対価とするTOBは、買収企業側からみると被買収企業の株式を使った現物出資に該当します。そのため、検査役の調査(会社法207条1項)や、被買収企業の株式に一定のプレミアムを付す場合には、新株の有利発行に該当して株主総会の特別決議(会社法201条1項)を要するのが原則です。

ただ、これも自社株対価のTOBを禁止するものではないですし、さらに産業競争力強化法で、自社株対価のTOBを含む事業再編計画を作成し、主務官庁の認定を受ければ、一定の範囲で株主総会決議や検査役の調査が不要となる特例が設けられています(産業競争力強化法34条)。

このように制度が整備されているにもかかわらず、日本で自社株対価による企業買収が一般的でなかったのは、被買収企業の株主に日本の税法が適用される場合、譲渡損益が認定されて納税義務が生じる点にあると指摘されていました。現金対価であれば株主は現金の一部を納税資金に回せますが、自社株対価の場合には現金を受け取れず納税義務だけを負う結果となり、被買収企業の株主に魅力のないスキームになってしまい、これが原因で被買収企業が日本企業の場合は自社株を対価にしにくいと考えられています(シャイアーの件のように被買収企業が外国企業であればこうした税法の問題点が生じません)。

そこで、平成30年度の税制改正で産業競争力強化法が再び改正され、一定の事業再編計画の認定を受けた事業者が行う自社株対価のTOBについて、株主に生じる株式の譲渡損益への課税を繰り延べる措置が講じられる予定です。

今後、こうした新たな制度を活用して、今回のような被買収企業が外国企業の場合に限らず、日本企業が他の日本企業を買収する際にも、自社株が対価として用いられるケースが出てくるものと予想されます。

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