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中村直人弁護士コラム 第83回

スルガ銀行第三者委員会報告書からみる不祥事防止対策

弁護士 中村直人

先日、スルガ銀行の第三者委員会の報告書を公表致しました。読者の皆さんに関係があるのは、「第6編 問題点と今後の改善策」だと思います。

この事例は、執行の現場と経営層の間に大きな情報の断絶がありました。それが経営層が有効に機能しなかった原因です。情報の断絶は、執行の現場が意図して報告を上げてこない場合と、経営層がまずい報告を上げさせない場合があります。いずれにしても多かれ少なかれ大企業にはありがちなことです。内部統制の要は、必要な情報を適時に獲得する仕組みを構築することです。取締役会・社外役員としては、自ら情報獲得ツールを洗い直し、必要な情報が獲得できる仕組みになっているか見直す必要があります。執行側からあてがわれた情報だけでは、全く不十分です。

執行役員制度がこの情報の断絶による無責任経営の道具として濫用されたことは、十分注目されなければなりません。執行役員制度は、法律に根拠がなく、責任や報酬規制もない鵺(ぬえ)的な機関です。それが現場の暴走と経営層の無責任化に一役買いました。もう、執行役員制度などという無責任ガバナンス態勢はやめて、指名委員会等設置会社に移行すべきです。

またこの事例では、取締役会は実質的な会議として機能していませんでした。問題が起きても、取締役会に適切に報告して審議してもらおうとは誰もしません。経営計画すらきちんと上程もされず、議論もされていませんでした。議論できる資料も提供されていませんでした。取締役会はお客様が好き勝手なコメントをするだけの場でした。いいすぎかも知れませんが、今の上場会社は大半そうなのではないでしょうか?各社とも、機構改革をして、取締役会が実質的に物事を決める場にしていかないといけません。経営会議など、やめてしまえばいいと思います。

この事例は、「限定的な聖域化」という現象だと指摘しました。いくつかある事業部門のうち、特定の部門だけですべての業績をたたき出している状態で、それ以外の事業部門はそれに依存してメシを食っている状態です。不正行為をしても数字を上げれば社内で評価されるということが続くと、不正行為をした者達は、「ほれ見ろ、会社も認めている」と自己正当化をし始めます。会社の業績を支えているという自負がそれに拍車をかけます。周りも会社はそれを支持していると認識し始めると、誰もその不正行為を指摘できなくなります。自分だけ真面目にやって成績が上がらないのでは馬鹿馬鹿しいから、みんな不正行為を始めます。つまり会社が不正行為をきちんと糾さないと、企業風土は一気に悪化していくのです。組織心理学という言葉がありますが、1人だと悪いことをしない人が、組織になると違う行動を始めます。これからは心理学を使って内部統制を構築しないといけません。

内部通報制度も、重要な課題があることが分かりました。各社とも内部通報制度を構築していると思いますが、何故それが適切に機能しないのか、報告書でいろいろな理由を指摘しています。ここで1つ拾うと、通報しようと思う人は結構沢山いるのですが、実行する人はその1割にも満たないということです。何故なら、不安があるからです。通報者を特定されるのではないか、社内でいじめに遭うのではないか等です。それは窓口に対する信頼感がないからです。社内の窓口はもちろん、社外の窓口であっても、例えば弁護士が窓口だと「この弁護士は会社とツーカーではないか?」、「社長の友達ではないか?」などの不安が生じます。顔が見えない人を信用しろというのは無理がありました。窓口の人の紹介や顔写真、そして社内の会合に来て頂いていろいろ話をする機会を設けるなどして「ああ、この人なら大丈夫かも」と思えるような信頼の基盤を醸成しないといけないことが分かりました。

最後にもう一つ指摘すると、この事例では、意思決定の内部統制が全く機能していませんでした。意思決定の内部統制というのは、意思決定権限の分配ルールのことです。誰が何を決めるか、その権限と手続をきちんと定めてそれに従うことが、責任に担保された秩序ある経営の大本になります。しかしこの事例では、何かあると直ぐ非公式な形で関係者がごそごそ話をして曖昧なまま物事が決められていきます。これが無責任経営に利用されるルーズな経営につながりました。

本事例は皆さんの会社にとっては、他社の不祥事事例であり、そこで指摘された問題は皆さんの会社でも振り返ってみる必要があります。日本システム技術事件最高裁判決が言う「特別の事情」に当たる事例だと思います。CGコードが適用されて数年が経ちますが、この事例を見ると、CGコードを真面目に実施していればこういうことは起きないだろうな、と思わせるものでした。CGコードって、結構よくできているのだと思います。

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