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中村直人弁護士コラム 第85回

政策保有株式に係る制度改革

弁護士 中村直人

今、会社法分野で強力に制度改革が進められているのは、政策保有株式と役員報酬です。今回は政策保有株式に係る制度改革の状況についてみてみましょう。

まず法的制度の改正としては、「企業内容等の開示に関する内閣府令」(開示府令)の改正があります。本年1月31日に公布された開示府令で、政策投資株式の保有に関して大きな改正がなされました。従前、政策投資株式については、有価証券報告書等で帳簿価格の大きい順に30銘柄につき保有目的や帳簿価格を銘柄別に記載することになっていました。今回の改正では、純投資目的とそれ以外の株式の区分の基準等を記載した上、政策保有株式の保有方針、保有の合理性を検証する方法、個別銘柄の保有の適否に関する取締役会等における検証の内容を記載します。また上場・非上場の区分に従い最近事業年度からの増加・減少した銘柄の数や取得価額・売却価額、増加の理由を記載します。個別銘柄についても30銘柄から60銘柄に拡大し、保有目的に加えて「会社の経営方針・経営戦略等、事業の内容及びセグメント情報と関連づけた定量的な保有効果(定量的な保有効果の記載が困難な場合には、その旨及び保有の合理性を検証した方法)」等を記載します。この改正は「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」と称しています。金商法の開示ですから、行為規制ではなく、情報開示規制なのですが、その内容は、行為規制に近づいているように見えます。また「対話」といっていますが、以前の金商法は財務情報を開示して投資家が理論株価を算定して売買の参考にすることが主目的だったのですが、最近は、「対話」を通して投資家、広くは世の中が、企業の行動に影響力を持つように意図されています。

次に、昨年CGコードも改正されています。新コードでは、「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など」の方針を開示せよとしています。また取締役会は、「保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである」としています。こちらも「コンプライ・オア・エクスプレイン」ですから、法的強制力はないのですが、従わないという決断を日本の会社はできないだろうと見越しているわけです。

これらの改正では、個別銘柄ごとに、資本コストを基準に、リターンを検証せよといっています。この趣旨は、政策保有株式などというものは、資本コストを下回るリターンしかなく企業価値を低下させる原因であるという認識の下、十分なリターンがあるならその計算を示してみなさい、と迫っているわけです。いわば理詰めで政策保有株式を放出させようとしているわけです。

ここで気がつくのは、昔、安定株主が投資家から問題視された理由は、敵対的買収ができないからとか、経営者支配を生むからとか、資本の空洞化だからといった理由が言われていました。しかし上記の指摘は、そういうものではなく、今、日本の企業のROEなどの効率性の指標が欧米企業に比較して低く、実際株価もなかなか上昇せず、それを向上させる必要があって、そのためにはこういう無駄な資産の保有をやめさせるべきだという論理です。これは真の意図はどうあれ、主観的な価値観の戦いではなく、定量的な企業価値の問題として取り上げているわけです。効率性の向上といわれれば、誰しも反対できません。これならば主義主張にかかわらず受け入れざるを得ない、となります。

さらにISSは、2020年2月以降、政策保有先の会社に勤務経験がある者については、社外役員としての独立性を認めないという方針を公表しています。この影響も大きいでしょう。

更に付け加えると、以上のような話は、ガバナンスの在り方の問題であり、従来は株主代表訴訟などの対象にはなりにくい問題でした。代表訴訟は、投資の失敗とか、不正融資などの不祥事、つまり個別の業務執行行為について責任を問うものばかりでした。しかし最近では、ガバナンスの在り方についての代表訴訟が増加してきました。たとえば役員報酬の決定の是非(ユーシン事件・東京高判平成30年9月26日資料版商事法務416号120頁)、監査役が代表取締役の解任を提案しなかったことの是非(セイクレスト事件・大阪高裁平成27年5月21日判時2279号96頁)、販売戦略に関する議題を取締役会に提案しなかったことの是非(新銀行東京事件・東京地裁平成27年3月26日判時2271号121頁)などが対象になっています。政策保有株式の問題についても、上記のように検証方法とその内容の開示が求められ、その基準も資本コストと明示され、定量的に是非が判断可能になってきました。何より政策保有株式というのは経営者の相互支持の仕組みといわれていますので、会社の利益のためなのか・忠実義務違反の問題はないのかといったことが懸念され、またそもそもガバナンスの問題に経営判断原則が適用されるのかということもあるため、これまでどおり安穏としてはいられない気もします。

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