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中村弁護士コラム 第54回

株主総会決議の不存在、無効、取消事由

弁護士 中村直人

株主総会の決議に瑕疵がある場合、決議が取消となったり、無効となったりすることがあります。会社法は、決議の取消訴訟の制度(831条)と決議無効・不存在確認訴訟の制度(830条)を設けています。決議の不存在というのは、そもそもまったく決議が行われたという事実がないにもかかわらず決議の登記がなされている場合や、一応総会らしきものは存在するが、法的には瑕疵が著しくておよそ決議があったとはいえないと評されるような場合です。一方、決議の無効と取消というのは、決議が存在しているがそれに瑕疵がある場合です。両者は瑕疵の事由によって分けられており、無効事由となるのは、決議の内容が法令違反であるとき(830条2項)、取消事由となるのは、@招集の手続又は決議方法が法令若しくは定款に違反し又は著しく不当なとき、A決議の内容が定款に違反するとき、B決議について特別な利害関係を有する者が議決権を行使したことにより著しく不当な決議がなされたときです(831条1項)。要するに、決議の「内容」が「法令に違反」する場合だけが無効で、それ以外の瑕疵は取消事由ということです。最近は、スクイズ・アウトや役員の責任免除などの事例で、Bの要件が争われる事例も出てきました。

決議不存在と決議無効の場合は、裁判によらずとも、その決議は不存在または無効ということになります。したがって、不存在確認訴訟や無効確認訴訟の判決を得なくても、自由に不存在、無効の主張をすることが可能です。但し、不存在確認や無効確認の認容判決がなされれば、法律関係の画一的解決を図るため、その判決には対世効が生じます(838条、834条16号)。

これに対して決議取消訴訟は、形成訴訟であるとされ、決議取消の判決が確定して始めて決議取消の効果が生じます。それまでは、瑕疵があっても、決議は有効です。そして決議の効果を速やかに確定させるため、決議取消訴訟には決議の日から3か月以内という提訴期間が定められています(831条1項)。それを過ぎれば決議は有効に確定します。なお、うっかりし易いのですが、取消訴訟における決議取消事由の主張も、この3か月以内に主張する必要があります。

決議取消訴訟については、瑕疵があれば何でも決議取消となるのではなく、場合によっては裁判所の裁量で請求が棄却される場合があります(831条2項)。この裁量棄却の要件は、@違反する事実が重大でないことと、A決議の結果に影響を及ぼさないことの両方を満たしていることです。Aの決議の結果に影響を及ぼさないという要件だけでも十分ではないかと思うかも知れませんが、@とAの両方が必要です。なぜなら、もし「結果に影響がなければ違法事由があっても決議取消にならない」というルールにしてしまうと、決議を成立させるのに十分な大株主が会社側につけば、会社は何をやっても決議取消にならないで済んでしまう、という不当な結果になってしまうからです。つまり株主総会というのは、少数の株主であっても、きちんと招集通知をもらったり、総会に出席したり、総会で説明を聞いたりする権利が保障されているのであって、それを侵したらやはり決議取消という結論とならなければいけないのです。そこで@の重大な違反も、必要要件となるわけです。その結果、ここにいう「重大な違反」というのは、株主の利益を保護するための規定はみな重大なものだ、と解されています。そのため、たとえば、計算書類等の備置・閲覧、招集通知の適正な発送、参考書類の提供や説明義務を尽くすことなどは、みな重大なことであり、原則としてそれに違反すると裁量棄却にはならないことになります。そこで裁量棄却に該当するのは、たとえば、議長が採決にあたって賛成・反対の票数を数え間違えたけれども結論には影響がなかった場合とか、誤って代理人資格のない者を総会に参加させてしまったけどその者の議決権数を差し引いても決議の結果には影響がなかったというような場合に限られることになります。但し、最近はあまり形式的に判断せず、株主全体の利益のために取消をした方がよいかどうかという視点で考えられるようになっています。この点、判決例を見ますと、必ずしも明確ではなく、判断が分かれているケースも見受けられます。それは、瑕疵はあっても株主はみんな分かっていたとか、それを主張するのは権利濫用的だとか、それぞれ固有の事情によって裁判所の心証が異なってくるからです。そのため、裁量棄却に関する判決を読む場合、非公開会社の事例か、上場会社の事例かで分けて理解する必要があります。裁判所は、前者の場合はケースバイケースの公平な結論を目指し、後者の場合はルールの遵守を目指していると思われるからです。

もし総会の決議が取消となると、その効果は遡及効がありますので、取締役の選任や配当など、収拾がつかなくなることがあります。一方、認容判決が確定してしまうまでに再度株主総会を開催して適法に追認の決議をするなどして、事後的に決議取消となる事態を避ける方法もあります。

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