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中村弁護士コラム 第76回

今年の株主総会の質問対応の留意点

弁護士 中村直人

今年の株主総会の対応は大変だ。まずは新しい想定質問を拾ってみよう。

ガバナンス・コードの関係では、質問をされたらそれなりに回答しなくてはいけない事項が多そうだ。なぜであろうか。ガバナンス・コードは、金融商品取引所との上場契約に基づき遵守または説明が求められる事項であり、本当は会社法には関係がない。しかしその内容を見ると、その主要な部分は、取締役会・社外取締役によるモニタリングを強化しようという点にある。つまり取締役会がきちんと機能しなさいということだ。株主総会というのは、もともと年に一度、取締役や監査役がその年の経営状況などを株主に報告し、必要な事項を決め、そのために説明義務を負う場である。モニタリングというのは、取締役会の最も重要な職務であるから、その内容について株主総会で質問されれば、当然それなりの説明は必要だ。だから会社法とは関係がないはずなのに、ガバナンス・コードの内容については説明義務が生じる事項が多いのである。具体的には、原則3−1の情報開示を求められている事項や、原則4−1、4−3などの監督の状況、原則4−7から10の独立取締役、原則4−11から14などの運営状況などは、質問されたらそれなりの説明はしたいところだ。もちろん説明義務の深さは、それほど深いわけではなく、何らかの回答をすれば十分であろう。事業報告の個別的記載事項ではない一般的な取締役の活動状況に過ぎないものが多いし、あるいは主観的な考え方・意見の問題だからである。なお、実務的には取締役会の実効性評価の内容が注目されている。総会後にガバナンス報告書を提出するとすれば、総会の時期には評価が終わっているはずだ。これまでの開示事例を見ると、「万全である」というスタンスのものもあるが、「これまでも十分ではあったが、今後○○などもする」などという改善策を提示している会社も多い。従前、会社の回答のスタンスは「会社は完璧です」という無謬性の前提に立つことが多かったが、これからはPDCAを回して少しずつ改善していくプロセスだ(逆にいえば完璧ではない)、というスタンスに立つことになる。企業文化・役員の意識の切り替えが必要だ。

会計監査人については、再任不再任の決定権限が監査役会に移ったので、その点について説明を求められれば、監査役が回答することになる。その判断のプロセスや判断基準などは、日本監査役協会もガイドラインを出しているから参考にする。新日本監査法人に関しては、金融庁から懲戒処分がなされているから、事業報告の記載事項となるとともに(規則126条5号6号)、再任の判断について問われることになろう。少なくとも業務改善命令の7項目の内容や公認会計士・監査審査会の勧告(H27.12.15)で指摘された点などの改善状況の確認は必要である。そもそもその対象となった工事進行基準とか、バイ・セル取引など、共通する問題を抱えている会社もあるし、さらには最近企業不祥事が相次いでいるので、不祥事が発覚していない会社にあっても、「なぜ当社は大丈夫といえるのか」という質問には十分用意しておく必要がある。なお、この手の質問に対して、コンプライアンス対策をてんこ盛りに並べた回答をすると、かえって意味不明である。話すネタがたくさんあるときは、逆に少数のポイントに絞って趣旨を説明するのが良い。

また事業報告では、内部統制の運用状況の開示や親会社等との関連当事者取引の開示が始まっている。不祥事があった会社では、内部統制の運用状況の概要の記載方法や総会での説明については十分な検討が必要である。記載の適法性と説明義務と役員の責任と企業秘密という複数の要請の調整が必要だ。

その他、最近の質問状況を見ると、マイナス金利の影響や女性活躍、監査等委員会への移行の有無、株価、中国・ブラジル・ロシアその他の世界情勢、ベルギー等のテロの対策などがでている。

さらにガバナンス・コードを受けて、今年の総会の議案では、社外取締役の選任がさらに進み、また役員報酬制度の改定をする会社が増えそうだ。これらについての説明もガバナンス・コードを踏まえてしっかり行う必要がある。またガバナンス・コードでは、独立取締役の役割が重視されており、総会でもその監督機能について社外取締役宛の質問がなされる可能性がある。もちろん業務執行の計数的な質問等は執行側が回答すれば良いが、社外取締役としての活動内容や意見、感想などを求められたら、社外取締役自らが回答することが望ましいであろう。もう社外取締役は、お客さんではなく、重要な職責を担う立場になったのである。

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