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中村直人弁護士コラム 第96回

最近の敵対的買収と防衛策のルール

弁護士 中村直人

最近、敵対的買収の事案が増加している。それが何らかの形で裁判所の判断に持ち込まれる事例も増加している。しかしその帰趨はさまざまである。たとえば東京機械製作所の事案では、会社の買収防衛策が裁判所で認められた。他方、関西スーパーの事案では、裁判所によりH2Oリテイリングとの統合の差し止め決定がなされている(現在係争中)。また、報道によると、SBIと新生銀行の事案では、金融庁が会社の買収防衛策に賛成しない意向となったことがきっかけで、SBIから社長を受け入れることで決着したという。このように結果的に見ると、敵対的買収が成功した事例もあれば、失敗した事例もある。最近の敵対的買収事案では、いかなるルールや考え方によって成否の判断がなされているのであろうか。

会社のガバナンスの世界では、すでに株主が全権を持つという株主主権主義は大幅に後退している。リーマンショック以来、株主に自由にさせておくと何をしでかすか分からないということが通念となった。一方日本的な従業員主権主義も、すでに過去のものになっている。今、日本の企業のROEが低いのも、労働者の賃金が30年も上がっていないのも、DXが進まないのも、年功序列型の組織が原因の一つであるとみられている。一方で、ESGという新しいガバナンス・モデルが登場した。そのような背景の中で、敵対的買収は、どう位置づけられるのであろうか。

すでに一方的にすべて株主の自由に任せれば良いといった価値観はない。他方、会社は従業員のものだから敵対的買収は悪であるという価値観もない。個別事案ごとに判断が分かれた要因を見ていくと、まず関西スーパーの事案は、株主総会で投票の方法によることとしたのに、マークシートで棄権とした者があとから自分は賛成の意図だったと述べたので議長は賛成票に数え直し、その結果議案が可決になったというものである。それが裁判所によって、否定された。裁判所は、マークシート方式にすると決めた以上、それと異なる取り扱いを議長がすることは法令違反または著しく不公正にあたると判断した。これは敵対的買収側に加担したものでもなければ、防衛側に加担したものでもない。ルールを決めた以上、それはきちんと守られるべきだ、という判断である。議長の個別の例外的判断を認めれば、恣意的な運用のリスクが生じることを意識しているのであろう。ここでは、敵対的買収に対しては中立的であり、ゲームのルールの公正性やその遵守を求めた。

東京機械製作所の事案では、最高裁まで、買収防衛策の差止請求を認めなかった。投資家の買い集めは強圧的な面があるとして、株主総会で多数の株主が防衛策に賛成した以上、その判断を尊重するというものである。昔のブルドックソース基準が生きていた。これはどう見たらいいのだろう。昔の株主主権主義の復活か?結果的に会社は従業員のモノと認めたのか?考えてみると、今はESGの時代であり、多様性が求められる時代である。しかしそれは環境Eや社会Sに適合した経営を求める範囲のことである。会社が他社と統合したり、買収したりされたりすることは、ESとは直接には関係しない。ESGの観点から介入する部分ではない。いわば白紙の分野になっていたのである。そうすると元々の権限分配に従って、会社の統合の是非や支配株主の許容性は、株主総会あるいは株主の判断に任せて良いということになる。

SBIと新生銀行の件はどう見れば良いか。国はまだ新生銀行に多額の普通株出資をしており、金融庁はその回収を考慮しなければならない立場にある。そのためには経営の効率性や株主の利益という観点を捨てるわけにはいかない。そのため、SBIのTOBを阻止して株主の売却の機会を喪失させることも適切でないし、経営の刷新に期待するところもあったのであろう。ポイントは、経営の効率性である。株主主権主義が後退して株主の利益が等閑視されているように思われているが、それは間違いであり、相変わらず投資家は重要なステークホールダーの一人であり、経営の効率性は不可欠な課題なのである。

このようにみてくると、今の時代、株主主権主義とか従業員主権主義とかの特定の基盤的思想はないが、@ゲームのルールはきちんと守られなければならない、AESと直接関係がないところでは権限分配のデフォルトルールが生きている、B株主の利益/経営の効率性は相変わらず重要な達成目標の一つである、などといった、個別のルールの積み重ねで構成されているとみるのが良さそうである。

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