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尾方司法書士コラム 第1回

会社法の一部を改正する法律等の施行に伴う商業・法人登記実務(第1回)

司法書士 尾方宏行

T はじめに

今回から2回にわたり、会社法の一部を改正する法律等の施行に伴う商業・法人登記実務の解説をさせていただきます。最初は、「電子提供制度の創設」及び「会社の支店の所在地における登記の廃止」に関してご説明させていただきます。

会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号。以下「改正法」といいます。)、会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(令和元年法律第71号。以下「整備法」といいます。)及び会社法施行規則等の一部を改正する省令(令和2年法務省令第52号)の一部並びに会社法の一部を改正する法律及び会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の一部の施行に伴う法務省関係政令の整備に関する政令(令和4年政令第249号)、商業登記規則等の一部を改正する省令(令和4年法務省令第34号)及び商業登記規則及び電気通信回線による登記情報の提供に関する法律施行規則の一部を改正する省令(令和4年法務省令第35号)が本年9月1日から施行されました。また、この改正に伴う商業・法人登記事務の取扱いに関して、「会社法の一部を改正する法律等の施行に伴う商業・法人登記事務の取扱いについて(通達)」(令和4年8月3日法務省民商第378号。1以下「通達1」といいます。)及び「商業登記規則及び電気通信回線による登記情報の提供に関する法律施行規則の一部を改正する省令の施行に伴う商業・法人登記事務の取扱いについて(通達)」(令和4年8月25日法務省民商第411号。2以下「通達2」といいます。)が発出されています。

今回の改正は、令和3年3月1日に一部施行された令和元年改正会社法の令和4年9月1日施行分等となっており、振替株式を発行する上場会社においては、必ず対応しなければならない登記実務がございますので、本稿の脱稿日(令和4年8月31日)時点の情報をもとに整理させていただきます。なお、本文中、意見にわたる部分は、筆者の個人的見解です。

U 電子提供制度の創設

1 概要

改正法では、定款の定めに基づき、取締役が、株主総会(種類株主総会を含みます。以下同じです。)参考書類、計算書類及び事業報告等、取締役が株主総会の招集に際して株主に提供しなければならない資料(以下「株主総会資料」といいます。)を自社のホームページ等のウェブサイトに掲載し、株主に対し、当該ウェブサイトのアドレス等を書面により通知した場合には、株主の個別の承諾を得ていないときであっても、取締役は、株主に対し、株主総会資料を適法に提供したものとする株主総会資料の電子提供制度(以下「電子提供制度」といいます。)が新たに設けられることとなりました(改正法第325条の2〜第325条の7等)。また、類型的にその株式の売買が頻繁に行われることが想定される上場会社等の振替株式(株券を発行する旨の定款の定めがない会社の株式(譲渡制限株式を除きます。)で振替機関が取り扱うもの(社債、株式等の振替に関する法律(平成13年法律第75号。以下「振替法」といいます。)第128条第1項))を発行する会社は、整備法によって、電子提供制度の利用が義務付けられており(改正後の振替法第159条の2第1項)、令和4年9月1日をその定款の変更が効力を生ずる日とする電子提供措置をとる旨の定款の定めを設ける定款の変更の決議をしたものとみなされることとなっています(整備法第10条第2項)。

2 電子提供措置に関する登記手続
(1)登記の期間
(@)施行日において振替株式を発行している会社

定款に電子提供措置をとる旨の定めのある株式会社は、その定めを登記しなければなりません(改正法第911条第3項第12号の2)。施行日において振替株式を発行している会社については、前述のとおり電子提供措置をとる旨の定款の定めを設ける定款の変更の決議をしたものとみなされていますが、施行日より前にあらかじめ電子提供措置をとる旨の定款の定めを設けている場合も含めて3、施行日から6か月以内に、その本店所在地において、電子提供措置をとる旨の定款の定めの設定による変更の登記をしなければなりません(整備法第10条第4項、通達1・第1・3(2)ア(ア))。また、施行日から6か月以内に、他の登記をするときは、当該他の登記と同時に、電子提供措置をとる旨の定款の定めの設定による変更の登記をしなければなりません(整備法第10条第5項)。したがって、上場会社においては、施行日以降の最初の商業登記申請の時期、又は施行日から6か月以内に商業登記の予定がない場合は施行日から6か月以内に、電子提供措置をとる旨の定款の定めの設定による変更の登記申請が必要であることについてご留意ください。

なお、整備法第10条第6項では、施行日に振替株式を発行している会社が、電子提供措置をとる旨の定款の定めの設定による変更の登記をするまでに、当該定款の定めに変更が生じた場合(上場廃止等の事由により振替株式を発行する会社に該当しないこととなり、かつ、電子提供措置をとる旨の定款の定めを廃止した場合を想定しているものと思われます。)には、遅滞なく、電子提供措置をとる旨の定款の定めの設定による変更の登記と当該定款の定めの廃止による変更の登記を同時に申請しなければならないとしています(整備法第10条第6項、通達1・第1・3(2)ア(ア))。

(A)上記(@)以外の株式会社

施行日後に振替株式を発行する会社に該当することとなった新規上場の株式会社がこれに該当すると考えられますが、振替株式を発行する会社以外の株式会社も任意で電子提供制度を採用することも可能です。これらの会社においては、株主総会の決議により定款を変更して、電子提供措置をとる旨の定款の定めを設定した効力発生日から2週間以内に、その本店所在地において、電子提供措置をとる旨の定款の定めの設定による変更の登記をしなければなりません(改正法第911条第3項第12号の2、第915条第1項)。

(2)登記すべき事項及び登記記録例

登記すべき事項は、電子提供措置をとる旨の定款の定め及び変更年月日となります。施行日において振替株式を発行している会社の変更年月日は施行日となります(通達1・第1・3(2)イ(ア))。電子公告と異なり、電子提供措置事項に係る情報を掲載するウェブサイトのアドレスは、登記事項とされていません4。また、施行日において振替株式を発行している会社の通達1の別紙記録例は、以下のとおりとなっておりますが、当該別紙記録例1の[注]では、「「電子提供措置に関する規定」欄には、原則として定款の文言どおりに記録する。」と示されていますので、各社がそれぞれ定款に定めた電子提供措置をとる旨の定款の定め自体を、その文言どおりに登記申請することとなります5

電子提供措置に関する規定 当会社は株主総会の招集に際し、株主総会参考書類等の内容である情報について、電子提供措置をとるものとする。 令和4年9月1日設定
令和4年10月3日登記

【注】右下の登記年月日は通達1の別紙記録例のとおりとしていますが、実際には登記申請が行われた日付が記録されます。

なお、何等かの事情により、電子提供措置をとる旨の定款の定めと登記記録の文言とが異なることとなった場合は、それぞれ一字一句、同一の表記となるようにその変更又は更正の登記を行うことも可能です。ただし、これまでの登記実務では、登記記録の表記は、登記事項の実質を備えていれば足りるとされていますので6、定款の記載事項と登記記録の表記を一致させるための変更又は更正の登記は、必ずしも必要となるわけではないと考えられます7

(3)添付書面
(@)施行日において振替株式を発行している会社

振替株式を発行している会社であることを証する書面(整備法第10条第7項)は、当該株式会社の代表者の作成に係る証明書で足りるとされ、当該証明書の内容も示されました(通達1・第1・3(2)ウ(ア)、別紙様式例)。なお、当該証明書は、押印の審査を要しない書面となりますので、押印がない当該証明書も添付書面として利用することが可能です。

(A)上記(@)以外の株式会社

株主総会の議事録並びに主要な株主の氏名又は名称、住所及び議決権等を証する書面となります(商業登記法第46条第2項、商業登記規則第61条第3項)。

(4)登録免許税

登録免許税額は、申請1件につき3万円です(登録免許税法別表第一第24号(一)ツ)。

V 会社の支店の所在地における登記の廃止

改正前は、会社は、本店の所在地において登記をするほか、支店の所在地においても、@商号、A本店の所在場所、B支店(その所在地を管轄する登記所の管轄区域内にあるものに限ります。)の所在場所の登記をしなければならないこととされていました(改正前会社法第930条第1項・第2項)。これは、支店のみと取引をする者が本店の所在場所を正確に把握していない場合があり得ることを前提として、支店の所在地を管轄する登記所において検索すればその本店を調査できるという仕組みを構築するものでした。しかし、インターネットが広く普及した現在においては、会社の検索が容易になっており、実際に、会社の支店所在地における登記について登記事項証明書の交付請求がされる例もほとんどないようでした。そこで今回の改正により、会社の支店所在地における登記が廃止されることとなりましたが(改正法第930条〜第932条、第937条、第938条)、会社の本店所在地では「支店の所在場所」が従前どおり登記事項となっておりますので(会社法第911条第3項第3号)、支店の設置、所在場所の移転又は廃止等登記事項に変更が生じたときは、その効力発生日から2週間以内にその変更の登記が必要となります(会社法第915条第1項)。なお、会社の支店の所在地における登記の廃止にともない、株式会社において商業登記関連で必要となる手続きはございません。会社の支店所在地における登記記録は施行日に閉鎖されています。


  • 1 通達1の内容は以下のURLからご欄いただけます。
    https://www.moj.go.jp/content/001378147.pdf
  • 2 通達2の内容は以下のURLからご覧いただけます。
    https://www.moj.go.jp/content/001379349.pdf
  • 3 施行日より前に改正法の施行を条件として株主総会の決議によって、電子提供措置をとる旨の定款の定めを設けた会社も、整備法第10条第3項から同条第5項までが適用されると解されています(神田秀樹ほか『座談会・令和元年改正会社法の考え方』15頁(竹林発言)旬刊商事法務No.2230)。
  • 4 竹林俊憲『一問一答 令和元年改正会社法』46頁、商事法務、2020年
  • 5 法務省ホームページ「「商業登記規則等が改正され、令和4年9月1日から施行されます」2電子提供措置をとる旨の定めが登記事項となることについて・≪よくあるご質問≫」をご参照ください。
  • 6 矢部博志「会社法施行後における商業登記実務の諸問題」登記研究702号69頁
  • 7 日本司法書士会連合会・商事法務推進員会編「会社法Q&A平成19年6月版」Q126において「定款に登記事項である株式の内容が複数文規定されている場合、定款の記載を整理した文章で登記することは可能か。」との設問に対し、「原則として定款記載どおりに登記すべきであるが、そのような申請でも登記可能である。ただし、定款と登記事項の同一性が確認できるものである必要がある。」と回答されている。

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