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中村弁護士コラム 第37回

金商法上の課徴金制度とインサイダー取引規制

弁護士 中村直人

平成16年の証取法改正により、インサイダー取引規制違反に対して、課徴金が課せられることになりました(金商法 175条)。従前は、インサイダー取引規制違反に対しては、刑事罰をもって対処していましたが、刑事罰では軽微な案件に対処しづらいこともあり、多様な手段で法の実現を図っていくことが望ましいとされたものです。これで、同規制違反に対しては、懲役刑や罰金(金商法197条の2)、没収・追徴(同198条の2)といった刑事罰に加えて、課徴金という、より迅速・簡便なエンフォースメントの制度が整えられました。

課徴金の制度は、刑事の二重処罰の禁止との関係があり、どこまでどういう負担を課してよいのか、議論があります。あくまでも刑事罰ではないというスタンスをとると、課徴金も「利得の没収」という位置づけになりやすく、その額も制限されます。しかし経済的な抑止力という観点からすると、「利得の没収」では「ダメもと」ということになり、抑止力になりません。そこで利得の数倍の課徴金を課すべきだという意見も強いのですが、現在国会に提出されている金商法の改正案でも、基本的には利得の没収の範囲とするにとどまっています。

課徴金の手続は、違反事実があると証券取引等監視委員会が判断すると、同委員会は内閣総理大臣(金融庁長官)に勧告をします。内閣総理大臣は勧告等があって違反事実があると認めるときは、審判手続を開始し、審判官の審判手続を経て、課徴金納付命令を出します。

課徴金の額は、インサイダー取引規制違反の場合、重要事実公表日の翌日の最終価格から、重要事実公表前に売買等をした価格を控除した金額とされています。機械的に決まってしまうわけです。現在、上述の金商法の改正案により、この価格を公表日翌日の終値ではなく、公表後2週間以内の最高値または最安値にする予定となっています。

実際にインサイダー取引規制違反として課徴金が課せられている事案は、年間10件程度あります。実務的に気をつけなければならないのは、インサイダー取引規制は、あくまでも形式犯として構成されているので、実質的に違法性がないと思われるようなケースでも、形式的に規制に反していれば、課徴金納付命令が来てしまうことです。たとえば、「子会社の解散」という重要事実には、現行法では軽微基準がありません。そのためその会社にとって重要性のない子会社であっても、その子会社が解散をするという事実は重要事実となってしまい、その事実を知りながら自社株式の取引をするとインサイダー取引規制違反になってしまいます。それによって自己株式取得が違法であるとして数千万円の課徴金を課せられた会社があります。これは、インサイダー取引規制を形式犯として構成してしまったことと、課徴金の納付命令に裁量を全く持たせなかったこと(実質的な悪質性を見て納付を命じなかったり、減額したりすることができません)の帰結です。実務としては、違法性を感じないようなケースでも課徴金命令が来るかも知れないということですから、要注意です。リーガルマインドで判断してはいけないということです。