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中村弁護士コラム 第52回

個別株主通知を要する少数株主権等

弁護士 中村直人

株券電子化の下では、株主の株式保有状況は基本的には振替口座で管理されることになります。以前のように発行会社に株券を提出して株主名簿の書換をするということは行われません。発行会社には、基準日などに振替機関から総株主通知(振替法151条)が行われ、それに基づいて株主名簿の記載が行われることになります(振替法152条)。

そうしますと、基準日の株主の状況は発行会社にも分かるのですが、基準日から基準日の間の期間については、誰が株主なのか、発行会社には分かりません。そのようなときに例えば株主提案権のような権利の行使があると、どうやってその人が株主であるか確認するのかということが問題となります。そこで、「少数株主権等」の行使の場合には、それを行使する株主は、振替機関等に申請をして、振替口座の記載に基づき個別株主通知というものを発行会社宛に出してもらうこととしました(振替法154条)。そうすれば発行会社にも、その人が株主であることが分かるわけです。株主は、この通知があった後、4週間以内に権利を行使する必要があります。あまり個別株主通知から時間が経過すると、既にその株主が株式を売却してしまっている可能性も高くなってきますので、期限を設けたわけです。会社の方では、その後その株主が株式を売却してしまっているのではないかということを、情報提供請求によって確認することもできます(振替法277条)。この個別株主通知は、以前の株主名簿への記載と同様、会社に対する対抗要件であると解されています。

この個別株主通知が必要な権利は、「少数株主権等」とされています(振替法154条2項)。少数株主権等というのは、株主の権利のうち、会社法124条1項に規定する権利を除いたものです(振替法147条4項)。会社法124条1項の権利というのは、基準日を設定して行使する権利です。つまり、基準日がある場合には、その基準日時点の総株主通知がなされ、それが株主名簿に記載されるのですから、個別株主通知がなくても会社は誰が株主であるか分かるわけです。だから個別株主通知は不要とされています。例えば、配当をもらう権利であるとか、株主総会で議決権を行使する権利などです。

実務的には、株主からのどのような権利行使などがあったときに、個別株主通知を要請すべきでしょうか。個別株主通知というのは、株主が証券会社に依頼して、原則として4営業日後に発行会社に通知が来ます。4日間かかるのは、各社の振替口座の集計をしているからです。そうすると、株主から見ると、個別株主通知が必要であるということになると、最低4営業日待つ必要がありますし、しかも最初に証券会社に申請をし、その後発行会社に権利行使をする、ということで2度の手間を要することになります。そのため面倒であるとか、権利行使期間を逃してしまうとか、そのような不利益が生じる恐れがあります。そこでそもそも法的な意味で、「少数株主権等」の範囲はどうあるべきか、という問題と、更に実務的には、法的な要否はともかく、どこまで個別株主通知を要求するか、という問題が生じるわけです。会社としては、あくまでも対抗要件ですから、それを求めないという選択肢もあり得るわけです。

たとえば、株主名簿の閲覧請求などは、会社としては株主の個人情報が記載してあり、株主以外の者には原則として見せてはいけない注意義務がありますから、これは個別株主通知を要求することになるでしょう。会計帳簿の閲覧や、取締役会議事録の閲覧請求なども同様かと思われます。他方、計算書類の交付請求などの場合、個別株主通知を要請しないことも考えられます。元々当社は計算書類については広く公開しているので、株主であることの確認は必要ない、というスタンスです。その他、有価証券報告書の請求や退職慰労金議案を付議するときの慰労金規程の閲覧請求などは、株主の権利ではないですから、個別株主通知を要請することはないでしょう。そのようなことを考えると、株主名簿の閲覧請求等の外、株主提案権や株主総会招集請求、役員の責任の提訴請求など重要な権利行使については個別株主通知を要請し、それ以外の場合には要請しないというようなことも考えられます。

裁判がからんだ場合には、更に問題が複雑になります。実際に問題となった事例として、会社法172条1項の価格決定申立をするに当たって、個別株主通知が必要か、必要な場合にはいつまでにすべきか、ということが争われました。東京高裁で3つの判決がなされ、@不要説(平成22年2月18日)、A価格決定申立可能期間中に必要説(平成22年1月20日)、B審理終結時までに必要説(平成22年2月9日)の3つに分かれてしまいました。その後、最高裁で、審理終結時までに必要であるとされました(平成22年12月7日)。

しかし最高裁の判決がなされたからといって、全ての問題が解決した訳ではありません。たとえば、株主総会決議取消訴訟のように提訴期間がある訴訟の場合はどうか、その提訴期間中に個別株主通知が必要なのではないか、また総会招集許可申請のように、株式保有期間の要件がある場合はどうか、などの問題があります。上記の最高裁判決も、価格決定申立という特殊な要因があり、厳格に個別株主通知を要求すると期間を徒過してしまった株主が救済されなくなるという政策的な配慮があったものと思われます。したがって、個別の権利ごとに種々の要因を考慮することになる可能性もあるわけです。

したがって、個別株主通知の問題は、日常の書類請求の対応といったレベルから、訴訟などになった場合の対応まで、いろいろな場面で問題となるものです。