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中村弁護士コラム 第60回

インサイダー取引規制の改正と金商法・会社法の関係

弁護士 中村直人

金商法のインサイダー取引規制の改正法が今月12日に官報に公布されました。その内容は、組織再編時に承継される特定有価証券等に係る規制の整理と、組織再編時の自己株式交付の適用除外等です。それ以外に、今後政省令の見直しにより、純粋持株会社における軽微基準等の見直しや公開買付け等事実の公表の仕方の追加等が行われるものと思われます。これは、インサイダー取引規制に関するワーキング・グループの平成23年12月15日付「企業グループ化に対応したインサイダー取引規制の見直しについて」という報告に基づくものであり、そこに趣旨が詳しく記載してあります。たとえば、再編時の株式等の承継については、従来、事業譲渡の場合にはインサイダー規制がかかっていたのに、合併等の場合には全くかかっていなかったことから、再編にも一律にインサイダー取引規制をかけ、しかしそれが資産の20%未満の場合には適用除外とするものです。組織再編時の自己株式交付については、従来、新株発行であればインサイダー取引規制がかからないのに、自己株式の交付だとそれがかかるというアンバランスな規制であったものを、いずれも規制がかからないことと整理するものです。全体としては、M&Aやグループ経営をする際に、従来の規制では不都合であった部分を修正する内容であり、インサイダー規制の骨格を変更するようなものではありません。

最近、金商法と会社法が交錯することがしばしばあります。どうしてでしょうか。金融庁設置法によると、「金融庁は、我が国の金融の機能の安定を確保し、預金者、保険契約者、有価証券の投資者その他これらに準ずる者の保護を図るとともに、金融の円滑を図ることを任務とする。」とされています(3条)。他方、法務省設置法によると、「法務省は、基本法制の維持及び整備、法秩序の維持、国民の権利擁護、国の利害に関係のある争訟の統一的かつ適正な処理並びに出入国の公正な管理を図ることを任務とする。」とされています(3条)。これによると、会社に関する法制に関しては法務省が所管し、投資家の保護に関しては金融庁が所管することになります。そこがそれぞれの法律の限界点となります。

また従来、金商法と会社法は、全く別個の無関係な法律と整理されてきました。例えば情報開示規制は、会社法と金商法がそれぞれ情報の開示と監査の手続を定め、重複した規制となっているのですが、そのまま放置されています。

しかし最近、投資家から、上場会社の内部統制を整備しろとか、ガバナンスを強化しろとか、いろいろな意見が出されます。その内容は、資本市場に関わるものだけでなく、会社のあり方に関わるものも多数あります。それを受け止める金融庁としては、あくまでもできるのは投資家保護の範囲だけであり、おおざっぱにいえば情報開示規制までです。そのため、財務報告の内部統制も、構築義務のように宣伝されていますが、法律をよく見ると、たんなる開示義務に留まっています。最近、役員報酬の個別開示とか、株主総会決議結果の開示など、会社法的な分野に手を突っ込んだような改正もされていますが、あくまでも会社法の実体規制ではなく、情報開示規制止まりになっています。公開買付規制における経営者の役割などは、かなり実体規制に近いのですが、やはり情報開示規制です。

つまり本来ひとつの上場会社ルールであるはずの金商法と会社法が断絶されているため、その両法の隙間に多くの問題が発生しており、そのまま無関係なものと位置づけるわけにはいかなくなってきたということです。また、ここの金商法と会社法のせめぎ合いは、いわば投資家と会社・経営者の戦いであり、背景には株主主権的な考え方と日本的経営という考え方の対立があります。従って、しばしばその改正を巡って、経済界に大きな軋轢が生じているのです。

このまま両法が断絶していたのでは、実務は混乱します。そこで今回の会社法改正要綱案でも、金商法に違反して取得された株式の議決権を止める制度など、両法の連続性、一貫性を指向する改正が盛り込まれています。

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