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中村弁護士コラム 第66回

基準日後株主による買取請求等

弁護士 中村直人

企業再編やMBO(全部取得条項付株式の取得)等に際して反対株主から株式の買取請求や価格決定請求がなされることがあります。この場合、株主総会の議決権の基準日後に株式を取得した者は、それらの請求ができるのか、学説に争いがありました。この点に付き、東京地裁平成25年9月17日付決定(金融・商事判例1427号54頁)は、基準日後に取得した株式についても価格決定請求が可能との判断を示しました(判批・弥永ジュリスト1461号2頁)。これは初めての判断ではないかと思われます(失念株主については東京地裁平成21年10月19日決定金融・商事判例1329号30頁がありました)。

法文上は、価格決定請求や買取請求ができる株主の中に「当該株主総会において議決権を行使できない株主」とする文言があり(会社法172条1項2号、469条2項1号ロ、785条2項1号ロなど)、基準日後に取得した株式はこれに該当するのかということが問題でした。

もともと会社法制定前は、この議決権を行使できない株主についての特段の規定はなく、例えば議決権制限株主についてどうすべきなのかなどという議論があったところ、会社法によってその点を明確にしたものと理解されていました(相澤編著「一問一答新・会社法改訂版」211頁)。このような理解では、基準日までに取得していなかった者はここに含まれず、買取請求は認められないという解釈になります(神田「株式買取請求制度の構造」商事法務1879号7頁、会社法コンメンタール18巻99頁、葉玉「略式株式交換における株式買取請求権」商事法務1878号42頁など)。他方、文言上は、特に基準日後の株主を排除していないとして、買取請求を認める説も有力でした(田中「組織再編と対価柔軟化」法学教室304号80頁、江頭「株式会社法第4版」776頁、松中「組織再編における株式買取請求権と公正な価格」法学教室362号36頁など)。

このあたりの議論というのは、肯定説、否定説いずれの説を見ても、すっきりしない印象があります。「立法経緯はこの問題とは別の理由だった」といえばそれはそうですが、だから直ちに対象株式に含まれないという結論を導く実質的な理由にはならない感じですし、逆に「文言上基準日後株主を排除していないから」という理由付けも、いかにも付けたりという感じです。

なぜこういうかみ合わない議論になるかというと、買取請求が一体何のための制度なのか、ということが、きちんと整理されていないからです。

元々は「反対株主の買取請求」といわれたとおり、総会で反対した者の権利であり、反対した者がそれを否決する地位を失われたから対価的に買取請求が与えられたものだとか、反対者が退出する権利だ、などと説明されたりしてきました(藤田「新会社法における株式買取請求権制度」(企業法の理論上巻)261頁)。

しかし会社法では、単純な現状での退出権ではなく、シナジーの分配機能が与えられました。その結果少数者にもシナジーを分配すれば多数決で企業再編をしても良いのだとか、良いM&Aは推進すべきでそのためのツールが買取請求であるとか、いろいろな視点からの立論が出てきました。

それ以外にも、買取請求を認めるかどうかという際には、買取請求を認めることにより機会主義的行動が発生しないかとか、オプションを付与したのと同じであることから不当に利することにならないか等という技術的な議論もなされ、再編等の公表前に取得した者と公表後に取得した者で分ける見解なども出されました。インセンティブ構造の合理的な設計の問題でもあるわけです。また買取請求というと、特定者からの自己株式の取得と同じことですから、両制度の平仄ないし合理的な関係性の説明も必要です。

このようにいろいろな考慮要素に左右される問題となってしまった上、そもそも株主総会の基準日後の株式を排除することが良いのか、排除しないことが良いのか、その価値観がどうもはっきりしないのです。その結果、どれもすっきりしない理由付けのまま説が分かれてしまったと思われます。

今回の決定は、MBOに伴う価格決定請求の事案であることに注意すべきです。MBOの場合には最終的には全員スクイズアウトしてしまいますから、公正な価格決定請求を認めないことにあまり意味はなさそうです。今回の決定も、「基準日後に株式を取得したことをもって、当該株主に対しその投下資本回収の機会を保証しないとする合理的な理由があるものとは認められない」としました。したがって、他の買取請求の場合に波及するかは、慎重に見極めた方が良さそうです。

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