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中村直人弁護士コラム 第86回

株主提案権の急増と新しい兆候

弁護士 中村直人

今年は、株主提案権を行使された会社の数が54社となり、過去最高を記録した。

株主提案権は、反原発などの運動型株主、アクティビストなど投資家、大株主による提案等の内紛型、会社に恨みをもったOBなどの個人型、会社ゴロ・奇人変人型などいろいろな種類があり、いずれも偶発的な要素が強く、全体としての傾向やトレンドというのは読みにくいものであった。

しかし今年のデータを見ると、そのあたりが少し見えてきたように思われる。まず提案権行使社数は、以前は毎年20社前後であったものが、最近5年間は一本調子で増加している。また提案される議案は、以前は定款変更に名を借りた業務執行系の議案が8割以上を占めていたが、最近では、剰余金配当・自己株式取得等の還元策や、役員選任議案が増加している。機関投資家による提案は、リーマンショック前に一時期増加した時期を除くと非常に少なかったが、最近5年間は増加傾向にあり、今年は10社を超えている。

議案に対する賛否も変化の兆しがある。武田薬品の株主提案は、報酬の個人別開示への賛成が50%、クローバック条項といわれる誤った報酬の返還条項への賛成が52%に及んだ。いずれも定款変更議案だったので、否決となったが、後者は報酬議案として提出されていたら可決の可能性があった。その他三井金属の報酬の個人別開示議案も45%の賛成を得たし、関西電力も同様の議案で43%の賛成が集まった。

考えてみると、会社提案議案であっても、報酬議案はときに反対票が沢山集まるようになっている。70%くらいしか賛成が集まらない会社も結構ある。役員選任議案も、独立性がない場合の社外役員候補者とか、企業業績が芳しくない場合の経営者など、賛成票が著しく低下している。

これはどういうことか。
  報酬に関しては、昨今、コーポレートガバナンス・コードや開示府令などで、急速に適切な報酬体系の構築と開示が迫られている。日本企業の役員報酬も、既に500人以上が1億円プレーヤーとなっており、既にサラリーマンの延長ではないから、個別開示を求められればそれに答えるべき環境になりつつある。また、社外役員の独立性やその能力に対する要請も高まっている。赤字が続いたり低ROEが続く会社に対しては、経営者に対する適切なモニタリングが発揮されることも求められている。

そして株主側を見ても、政策投資株式を含めた機関投資家は、議決権行使基準の策定や議決権行使結果の個別開示を求められ、説明できない議決権行使はできなくなった。
  そのような諸要素があるため、報酬議案や役員選任議案では、会社提案/株主提案の別なく、合理的な判断基準をもってその賛否を判断すべき状況になっており、議決権行使助言会社も合理性で判断をしている。その結果、株主提案であっても、内容が良ければ賛成票を集めることが可能になり、可決までいかなくても大きなプレッシャーをかけることができるようになってきた。それが合理的な内容の株主提案の増加に繋がっている。

こうなると会社側も、株主提案はうさん臭いもので誰も賛同しないから心配しなくていいなどと高をくくっているわけにはいかない。特に株主還元議案、役員選任議案、役員報酬議案については、社会的に正当とみられる基準にしたがって立案すべきだし、その正当性の説明が必要だ。実際、議決権行使助言会社の反対推奨が出された場合の反論(補足説明)のリリースは、大幅に増加している。また株主提案であっても、合理的なものであれば会社提案に取り込むなどの柔軟な対応も必要だ。

今、会社提案に過半数の賛成を得ているといっても、その内容を精査すれば、何も考えずに白紙で議決権行使書を返送した株主は沢山いるだろう。彼等は鉄の意志で会社提案を支持しているわけではない。もし何かのきっかけできちんと会社提案と株主提案の優劣を考えたら、一気に株主提案に流れてしまうかも知れない。会社側の足元は、意外に危ういものなのだ。

もともと役員報酬制度の在り方などは極めて多様な設計がありうるのであって、いろいろな意見があって当たり前だ。従来のように会社提案が100%に近い賛成を獲得するというのは不自然なのだと気付くべきなのである。

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