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中村直人弁護士コラム 第87回

親子上場を巡る最近の動きと留意点

弁護士 中村直人

最近上場子会社を巡る問題が注目を浴びている。政府は2019年6月閣議決定の「成長戦略実行計画」で、上場子会社のガバナンスについて指針の策定等を定め、同月、経産省は「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」を公表した。東証も、同年11月に「上場子会社のガバナンスの向上等に関する上場制度の整備について」を公表した。最近は支配会社と被支配会社の間の紛争も多発している。ISSは2020年議決権行使助言方針改定で親会社や支配株主を有する会社の取締役会の独立性について社外取締役が3分の1未満であるときは経営トップに対して反対推奨をするとした。

親子会社のあり方というのは昭和の時代から立法課題とされてきたとても古い問題である。しかし、最近は日本企業のガバナンスの状況が大きく変わってきたことで、違う問題になってきたとも思われる。実際に発生する上場子会社と親会社の紛争は、親会社が子会社に不利な取引を強要するような古典的な類型もあるが、最近では経営方針に係る対立やグループの再編、子会社の売却、その他いろいろな局面で問題になっている。

日本企業も、昔ながらの従業員管理型企業というわけでもなく、企業価値の向上という共通の物差しを持つようになっている。社外取締役が大幅に増加して彼等の動向が大きな要因になってきたこともある。その結果今は、紛争が生じると、どちらがより優れたガバナンス体制や経営方針であるかという戦い方になる。感情的な背景には、支配株主側はこの会社は俺のモノだという意識があり、被支配会社側には経営の独立性が企業価値の源泉だという認識がある。親子ということで上下意識が微妙に影響していることもある。

問題が複雑化するのは、いろいろな価値観が整理されていないからだ。まず支配株主側は、会社というのは多数決原理で経営支配権を定めることになっているのだから、過半数を制した者が自由に振る舞って当然だ、という価値観を示す。「多数決原理」と「株主万能主義」だ。子会社側は「経営の独立性」を主張するが、それは子会社役職員の抵抗でもある。ESGの時代になって、どちらも勢いを失ってきた考え方である。一方で、子会社に不利益な経営を押しつけるのは、「少数株主に対する義務違反」であるという価値観も存在する。ここでは、「支配株主と少数株主の利害調整の問題」だ、という視点になる。実際には、義務違反や不法行為になるほど不当な取引を強要するような事例が多いわけでもなく、経営方針の対立などといった経営判断の範囲内の対立も多い。そういうものは、この義務違反論では採り上げることができない。そこで立法論として、ならば支配株主の自由にして良いが得られた企業価値の増加分を少数株主にも適正に分配しましょう、というような「富の分配論」が出てくる。「富の最大化」のためには支配株主の権限を認める立場だ。スクイズアウトなどと似ている。

支配株主の取締役は、自社の企業価値最大化のために被支配会社を管理し、他方被支配会社の取締役は、単体の自社の企業価値の最大化のために行動する義務を負担している、というところからギャップが生じている。つまり日本の会社法が「単体主義」で取締役の義務を設定しているところに原因がある。また支配株主は現実に株主総会を通じて自己の意思を押し通すことができるが、「株主の有限責任の原則」があり、株主としての責任を問われることは稀だ。被支配会社やその少数株主に対して義務を負わないから、無理が通ってしまう。そこで「支配株主の責任」論に行き着く。結局、いろいろな考え方が錯綜していて、現行の法律で分かっていることは、各社の取締役は各社の利益のために義務を負っている、ということだけである。

今は、社外取締役の増加を背景に、この親子上場の対立問題を、子会社の独立性確保という視点に立ち、社外取締役に解決の責任を担わせようという方向になっている。しかし判断の物差しが決まっていないのだから、社外取締役は大変だ。独立者が判断した以上、なんであれそれを受け入れようという、いわば「丸投げ策」である。この問題については、社外取締役が主体的に問題を解決する必要がある。社外取締役は意思決定の「当事者」であることを求められる。たんなるアドバイザーではない。そのため、最近の紛争では、社外取締役自身が説明責任を負う事態にもなっている。どういう解決が望ましいのか、しばらくケースを積み重ねて世論の価値観の醸成を待つほかないかも知れない。

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