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新着情報 2020年6月2日

新型コロナウイルス感染症への対応と役員及び会計監査人の任期について(補足追加版)

2020年6月2日

司法書士法人ライプ事務所
 代表社員 司法書士 尾方宏行

本年の株主総会では、各企業において新型コロナウイルス感染症への対応が求められています。株主総会の開催方法によって、改選期にある役員(定款において、任期の末日が定時株主総会の終結の時までとされている取締役、会計参与及び監査役)及び会計監査人の任期はどのようになるでしょうか。3月決算の株式会社において、例年とは異なる具体的な事例ごとに、以下のとおりまとめてみましたので、ご案内させていただきます。

1.定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない事例

法務省は、新型コロナウイルス感染症に関連し、定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には、その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りるとの見解を公表しています*1。また、このような場合には、改選期にある役員及び会計監査人の任期については、定時株主総会を開催することができない状況が解消された後合理的な期間内に開催された定時株主総会の終結の時までとなるとの見解を公表しています*2。また、同法務省見解では、3月決算で定時株主総会を毎事業年度末日の翌日から3か月以内に招集されるとしている株式会社が7月20日に定時株主総会を開催した場合、当該定時株主総会において再任した役員についてする役員の変更の登記原因は、「令和2年7月20日重任」となると考えられるとしています。したがって、この方法を採用する3月決算の株式会社においては、6月に役員を交代することはできないこととなります。

2.定款所定の時期に定時株主総会を開催し、決議事項は決議して継続会の決議を行い、その後、定款所定の時期を過ぎて継続会を開催して計算書類等の報告をする事例

令和2年4月28日付で金融庁・法務省・経済産業省より「継続会(会社法317条)について」*3が公表され、脚注2の「商業・法人登記事務に関するQ&A」(以下、「Q&A」といいます。)が、令和2年5月1日に更新されました(Q&A2及びQ&A3の追加)。これによりますと、本事例の場合は継続会の終結の時をもって、役員及び会計監査人の任期が満了するとしています。また、定款所定の時期に開催する先行の株主総会の日をもって役員を交代する必要がある場合は、先行する株主総会の日をもって役員が辞任し、同日に後任を選任することが考えられます。このように役員が辞任する方法を採用する場合は、一方で会計監査人の任期が継続会の終結時までとなりますので(会社法第338条第1項)、役員の退任、就任日(先行する株主総会の日)と会計監査人の重任(会社法第338条第2項)の日(継続会の終結の日)が異なることとなります。

なお、上記取扱いは従前の登記実務と異なるものとなっております。今般の緊急事態を十分に考慮したものと考えられ、Q&Aの冒頭にも「今般の新型コロナウイルス感染症の影響により〜」と示されています。したがって、平時における継続会でもこの取扱いと同様に解することができるか疑問が残りますので、従前の登記実務についてもご参考までにご案内させていただきます。継続会は先行の株主総会と同一の株主総会であるとされており、登記実務においても、定款所定の時期に定時株主総会が開催されたが終結に至らず延期又は続行となった場合の役員の任期は、定款に任期伸長の規定があれば、その総会の終結の時まで延長されるとしています*4。ただし、2.の事例は、定款所定の時期に定時株主総会は開催されてはいるものの、定時株主総会(継続会)の終結の時は定款所定の時期を経過していることとなるため、別の検討が必要となります。従前の登記実務では、定款所定の時期に定時株主総会が開かれなかったときの取締役及び監査役の任期は、定款所定の定時株主総会の開かれるべきであった期間の満了によるとされており*5、また、定款所定の時期を過ぎて継続会が開催される場合は、定時株主総会が開催されるべき期間の満了日をもって、取締役又は監査役は任期満了によって退任するとしていました*6。したがって、2.の事例に関するQ&Aの取扱いは従前の取扱いと異なるものとなっておりますので、ご留意ください*7

3.定款所定の時期に定時株主総会を開催し、決議事項を決議する。別途臨時株主総会を開催して計算書類を報告する事例

法務省が公表したQ&AのQ3及びそのAでは、本事例の場合の役員及び会計監査人の任期は、定款所定の時期に開催した株主総会の終結の時をもって満了する(例えば、定款所定の時期に開催した株主総会が6月29日開催であれば、6月29日に任期が満了する。)としています。この取扱いも従前の登記実務と異なるものとなっております。さきほどと同様に、今般の法務省見解が平時においてもこの取扱いと同様に解することができるか疑問が残りますので、ご参考までに従前の登記実務の取扱いについてご案内させていただきます。

定時株主総会と臨時株主総会の区別については、招集時期によるとする招集時期説と、招集の時期にかかわらず、計算書類の確定・承認等が議題となっているかどうかによるとする議題内容説とに分かれています*8。登記実務上は、上記の見解のいずれかによるかはさほど重要でなく脚注5の取扱いに注意すれば足りるとしており*9、定款所定の定時株主総会の開かれるべきであった期間の満了によって任期が満了する(例えば、定款に毎年6月に定時株主総会を開催するとしている会社の場合は、6月30日に任期が満了する。)と取り扱われていました。したがって、3.の事例に関するQ&Aの取扱いは従前の取扱いと異なるものとなっておりますので、ご留意ください。

(2020年5月8日執筆)

【補記】

脚注2のQ&Aが、令和2年5月28日に更新(Q&A2をQ&A2−1〜3に更新)されましたので、上記2.の事例について補足させていただきます(なお、上記Q&Aの対象番号は更新前のものとなっています。)。更新後のQ&Aにおいて、ご留意いただきたい商業登記上の主な論点は次のとおりとなります(以下のQ&Aの番号は更新後のものを指します)。

1.先行する株主総会の日をもって役員を交代する方法が追加された

更新後のQ&A2−1では、次の事項が追記されています。

もっとも、今般の新型コロナウイルス感染症の影響によりQ2−1の例のように継続会を開催する場合において、当初の株主総会において役員等を改選する必要があるときは、継続会の開催までに相当期間を要することがあることから、当初の株主総会における決議(会社法第329条第1項)により、当初の株主総会の時点において改選期にある役員等の任期が満了するものとして、その後任を選任する方法によることも可能であると考えられます。

ここでも、「今般の新型コロナウイルス感染症の影響により〜」としていることから、今般の緊急事態に対応した特例的な取り扱いと考えられますが、これまでの登記実務の取扱いと大きく異なりますので、ご留意ください。法令及び定款で定める役員及び会計監査人の任期について、これを会社法第329条第1項の決議によって短縮できるような内容となっています。なお、この見解を採用して、会計監査人の重任を当初の株主総会の時点とする場合には、別途、会計監査人選任議案の上程が必要となると考えられます。したがって、現実的な対応としては、会計監査人についてはこの方法を採用せず、継続会の終結をもって「再任されたものとみなす」(会社法第338条2項)方法を採用する会社が多いのではないかと考えています。

2.先行する株主総会議事録は商業登記申請における添付書面となる

先行する株主総会の決議により選任された役員の変更登記を申請するには、添付書面として、株主総会議事録が必要となります(商業登記法46条2項)。継続会が終結していない段階では、株主総会が終結していないため、その段階の議事録を添付して登記申請を行うことが可能かどうかといった点が疑問視されていました*10。今回のQ&A2−2の更新において、継続会の開催前であっても、先行する株主総会の議事録を添付することで、登記申請が可能であることが明らかになりました。なお、上記補記1の事例では、その変更登記を行う場合の添付書面となる先行する株主総会の議事録において、改選期にある役員等の任期が当初の株主総会の時点で満了する旨及びその後任を選任した旨の記載が必要であるとしています。

3.先行する株主総会において一部の役員の改選がある場合の取扱い

更新後のQ&A2−3では、一部の役員の改選が必要な場合の取扱いについて見解が示されています*11。Q&A2−3は、先行する株主総会の時点で一部の役員が辞任し、その後任を選任するとともに、残りの現任役員の再選を決議した事例ですが、その変更登記を行う場合の添付書面となる先行する株主総会の議事録において、新任の役員が先行する株主総会の日をもって辞任した役員の後任として選任された旨が記載されていることが必要であるとしています。

なお、東証上場の監査役会設置会社のうち、取締役の任期を1年と定めた会社の比率は、60.5%となっていますが*12、取締役の任期を2年としている会社も多数存在します。さらに、取締役の任期を2年と定めている会社の定款では、増員又は補欠として選任された取締役の任期について、在任取締役の任期の満了時とする規定を設けている会社が多く存在しているものと思われます(取締役の任期を1年と定めている場合でも、増員又は補欠の定款規定が存在する場合もあり得えます)。従前の登記実務によると、このような増員又は補欠の定款規定のある会社において、本事例のように先行する株主総会をもって一部の取締役が辞任し、その後任の取締役を選任する方法を採用すると、その後任の取締役の任期は、残りの現任取締役の任期に調整される(継続会の終結までの任期となる)と考えられます。Q&A2−3では、増員又は補欠の定款規定のある会社において、この後任の取締役の任期の取扱いが明らかになっておりません。Q&A2−3の説明が増員又は補欠の定款規定がないことを前提としているのかどうか、現時点では明らかになっておりませんので、増員又は補欠の定款規定のある会社において、Q&A2−3の方法を採用する場合には、別途、管轄法務局にご確認いただくことをお勧めいたします。

また、Q&A2−3において、株主総会の議事録から当該株主総会において対象の役員が辞任する旨の意思表示をした旨が判明する場合には、別途その辞任届を添付する必要がないとしている点は、従前の登記実務と同様の取扱いとなっています*13

(2020年6月1日執筆)

*1 法務省HP「定時株主総会の開催について」
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00021.html

*2 法務省HP「商業・法人登記事務に関するQ&A」
http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho06_00076.html

*3 金融庁・法務省・経済産業省「継続会(会社法317条)について」
https://www.fsa.go.jp/ordinary/coronavirus202001/11.pdf

*4 昭和36年8月8日民事甲第1909民事局長指示

*5 昭和33年12月23日民事甲第2655号民事局長回答、昭和38年5月18日民事甲第1356号民事局長回答

*6 菊池洋一編著『商業登記制度をめぐる諸問題』(テイハン、1994年)334頁(門田稔永井)、鴻常夫・清水湛・江頭憲治郎・寺田逸郎編『商業登記先例判例百選』(有斐閣、1993年)97頁(吉戒修一)

*7 Q&Aが令和2年5月1日に更新されるまでの間、2.の事例における登記実務上の取扱いについて司法書士内藤卓先生のブログにおいて詳細に検討されていました。内藤卓先生のブログ記事
https://blog.goo.ne.jp/tks-naito/e/a2b3b3982255eb035a723a190dc75217

*8 岩原紳作編『会社法コンメンタール7−機関(1)』(商事法務2013年)48頁(青竹正一)

*9 松井信憲著『商業登記ハンドブック[第3版]』(商事法務2015年)142頁

*10 飯田秀総=塚本英巨=藤田友敬=三笘裕『<座談会>新型コロナウイルス感染症と令和2年度定時株主総会(下)』(商事法務ポータル、2020年5月1日)3(3)藤田発言

*11 補記1及び3の事例における取締役選任議案の記載例について、東京株式懇話会研究部から『継続会開催を予定する場合の取締役選任議案の記載例(改訂版)について』(2020年5月29日)が公表されており、参考になります。
https://www.kabukon.tokyo/activity/data/study/study_2020_05.pdf

*12 『コーポレート・ガバナンス白書2019年』(株式会社東京証券取引所、2019年)

*13 昭和36年10月12日民四197号民事局第四課長回答

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