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中村直人弁護士コラム 第84回

役員報酬を巡る最近の事案と背景

弁護士 中村直人

最近、役員報酬を巡る事件が続いています。なぜ今、こういうことが起きるのでしょうか。昔は、役員の報酬は、月額報酬と賞与及び退職慰労金でした。月額報酬と賞与は単年度あるいは単月報酬であり、退職慰労金も退職時の一時払いであり、株主総会で確定額または上限額を決めるもので、手続的にも明確ですし、開示で迷うこともありませんでした。

しかしここ20年くらいの間に、役員の報酬制度は大きく変わってきました。報酬の種類は、金銭だけでなく、新株予約権(ストック・オプション)や株式(譲渡制限付株式や株式交付信託等)、さらにはファントムストックなども登場しています。金銭報酬も、業績連動報酬が急増してきました。これらは単年度の評価ではなく、中期経営計画に合わせたり、在任期間に合わせるなどしており、複数年度にまたがる報酬です。しかもその金額等は株価や業績等に応じて大きく変動します。さらに報酬の水準も、相当高くなってきました。年収1億円を超える役員が既に500人を超えたといわれています。これはもう従業員の延長ではなく、プロ経営者というべきです。高額化に伴い、株主総会決議の範囲内であっても高額報酬を決定したことが善管注意義務違反にならないかということが問題となった判決例も登場しました(東京高裁H30.9.26資料版商事法務416号120頁)。結論的には、判断の過程及び内容に著しく不合理な点はないとしていますが、その報酬決定の判断過程が審査されていますから実務として無視はできません(根拠なしに鉛筆なめなめ決めたのであれば、問題になりそうです)。

このように多岐多様になると、株主総会での決議にあたっても、何を、どう説明して決議すればいいのか曖昧で、報酬議案は株主の質問が集中する事態となっています。設計にあたっても、税法上の取扱い(退職所得となるかどうか等)や役員個人のキャッシュフロー(SOの場合)、業績連動報酬の指標の在り方や複数の事業部門がある場合の各担当役員の公平性など、多くの問題があって、どう解決したらいいか分かりません。開示についても、いつ、どの金額をどう開示すればいいのか曖昧になってきました。

このような中、法制度も少しずつ改正をしてきましたが、ストック・オプションの付与方法がいくつもあるなど、法制度として整理されたものにはなっていません。そもそも何が役員報酬の在り方というテーマにおいて重要なのか、焦点が定まっていなかったのです。

役員報酬制度として重要なのは、@報酬決定の方針と、A報酬ミックス、そしてB報酬水準です。@の報酬決定の方針は、報酬の在り方として、公平性や業績向上へのインセンティブ、優秀な経営者の獲得(市場原理)など、いろいろな考慮要素がありますが、どの考え方に拠るのかということです。またA報酬ミックスは、固定報酬と単年度または中期の業績連動報酬、若しくは金銭報酬と株式報酬等の割合の決め方です。最後のB水準は、何をベンチマークにしているかということです。同業他社とか、同規模会社とか、日本企業とか海外企業とか、いろいろ取り方はあります。これに付け加えると、C業績連動報酬の指標は何にするのか/計算式はどうするのか、ということもあります。おおむねこの4つが分かれば、経営者も投資家もその報酬が適切かどうか判断できるのではないでしょうか。昔は、「お手盛りの防止」が商法の課題でしたが、そういう時代はとうに過ぎ去っていたのです。

そのように考えていくと、報酬の実体規制及び開示規制の双方において、これらの要素がきちんと投資家に説明し了解されているかということが重要だということが分かります。そこで今、金商法の開示府令の改正や会社法の改正で、報酬決定の方針や業績連動報酬の内容等の決定手続や開示ルール等を整備しようとしています(H30.11.2「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正案、法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会第18回会議資料「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案(仮案2)」参照)。昨今は、こういう非財務情報の重要性が増してきています。

それでもまだ日本企業の役員報酬はきちんと整理されたとはとても言えません。たとえば海外で買収した子会社の役員報酬の方が日本の親会社の報酬より何倍も高いという不整合の問題があります。また、執行役員としての報酬が取締役報酬の手続・規制から除外されていることは妥当か(使用人給与に関する最判S60.3.26との整合性等)という問題もあります。これは執行役員給与が業績連動報酬として相当高額になり、かつ自由裁量的になっているからです。今般のCGコードの改訂では、取締役会が報酬制度を設計し具体的な報酬額を決定することとされていますが(補充原則4-2@)、実務では未だに取締役会が報酬の決定を社長に一任しており、それは適切なのかという課題もあります。最近の事案では海外子会社からのフリンジ・ベネフィットのようなものが問題とされているようで、海外子会社がらみの問題もあります。なすべきことは山積みです。しかも今や役員報酬は、社長の専属マターではなく、社外役員を中心としたガバナンスの問題になっています。「社長マターの秘密事項だからよく分からない」といって済まされる問題ではなくなりました。

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