株式実務とガバナンスサポートの
ベストパートナー

東京証券代行は証券代行の専門会社です。
株主名簿管理人として株式実務や株主総会運営のアドバイスはもとより、
株式新規上場のお手伝いやコーポレートガバナンス全般にわたるコンサルティングなど、
お客さまを全力でサポートいたします。

  1. ホーム>
  2. 中村弁護士コラム>
  3. 中村弁護士コラム 第91回

中村直人弁護士コラム 第91回

令和元年改正会社法(2)
株主提案権の濫用防止

弁護士 中村直人

令和元年改正で、株主提案権の濫用防止のための改正がなされています。もとの改正案では、提案できる数の制限と、提案できる内容の制限の2本立てでしたが、国会で修正され、数の制限だけが残っています。今回の改正は、最近膨大な議案数の提案権を行使する事例があり、招集通知に書ききれないほどになるものや、いかにも内容が不適切なものがあったことがきっかけです。後者の内容の制限については改正がなされなかったので、従来からの株主権の濫用法理などで対応するほかありません。

改正法では、議案の数が10を超える部分については、会社法305条1項から3項が適用されないとしています(同条4項)。一般には、提案できる議案の数の制限がなされたと理解されていますが、正確には、会社法305条1項から3項に基づく議案の要領の通知請求権が適用されなくなるということです。議案の要領の通知がなされないため、招集通知や株主総会参考書類にその議案の要領が記載されることはなくなり、また議決権行使書面でも賛否の欄が設けられなくなると思われますが、総会当日に、総会場で動議の形で議案を出すことは可能です(304条)。もちろん動議ですから、原案から予見できる範囲内という制約はあります。また立法担当官からは、10を超えて議案の要領の通知請求はできないけれど、議題の提案をすることは可能であると説明されています(旬刊商事法務2223号4頁)。議題だけ出されても、実務は困ってしまいますが。

10という制約を設けたので、その数え方が問題になりました。法文上は、「取締役、会計参与、監査役、会計監査人」の選任に関する議案は、候補者の数に関係なく、まとめて1つとみるとされています。役員の種類ごとに計算すれば良さそうなものですが、全部まとめて1つです。役員等の解任に関する議案も同様です。役員の種別ごとに別議案と数えると、数が多くなりすぎる可能性があるので、技術的にそのようにしたようです。

実務的に問題となるのは、定款変更議案です。定款変更議案の数というのは、従来からその数え方が明白ではなく、項目ごとに考えるのか、条文ごとに考えるのかいろいろありそうでしたが、改正法では、一体となる改正は、全部で1つとみる、という方針にしました。逆にいえば、一体ではない改正は、各条文や項目ごとに別の議案として数えることになりますので、提案する側としては制約が大きいことになります。この一体の範囲ですが、法文では、「当該二以上の議案について異なる議決がされたとすれば当該議決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合」と表現されています。分かりにくいですが、たとえば、監査役設置会社が監査等委員会設置会社に移行する定款変更において、監査等委員会を設置するという改正と、監査役の条項を削除するという改正は、どちらかが可決されて片方が否決されると、困ったことになってしまいます。そういうことをいっています。しかし実務的には難しい判断になることが予想されます。

10を超える議案の要領通知請求がなされたとき、どの議案が超える部分となるか、ということについては、提案株主が優先順位を定めていれば、それによりますが、それがないときは、取締役がそれを判断するものとしています。立法担当官は、その合理的な判断のルールを定めておいた方がいいということを指摘していて、実務的には株式取扱規程などで定めることも考えられるとしています。また「取締役」が選択をするとされていますが、実務的には取締役会で決める会社も出てきそうです。

以上の通りで、令和3年3月1日の改正法施行までに提案権行使があった場合のマニュアル(手順)を修正しておくことが実務の課題となりそうです。

© 2020 Tokyo Securities Transfer Agent Co., Ltd. All rights reserved.

利便性向上、利用分析等のためクッキーを使用してアクセスデータを取得しています。
詳しくは「このサイトのご利用について」をご覧ください。オプトアウトもこちらから可能です。