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中村直人弁護士コラム 第92回

令和元年改正会社法(3)
役員報酬等規制の改正

弁護士 中村直人

令和元年改正会社法では、役員報酬等に関する規律も改正された。字数の関係もあり、その概要は法務省の解説等によって頂くとして、ここでは改正法施行前後で、実務でチェックすべき点を思い付くまま挙げていくこととする。便宜のため、チェック項目を「@」から順に付していく。

1.報酬等議案の改正

改正法では、361条1項が改正され、無償で株式・新株予約権を交付する場合及び金銭報酬を払込み等にあてて株式・新株予約権を交付する場合についての規定が設けられた。併せてそれらの発行手続きに関する改正もされている(会社法202条の2,236条)。報酬等の議案で決議すべき事項も法務省令で定められた(会社法施行規則98条の2〜4)。そのため、従来、ストック・オプションやリストリクテッド・ストック、株式信託報酬等の議案で実施されてきた株式系の報酬議案の規律が変更される。

そこでまず次期株主総会で株式系の報酬議案を提案しようとしている会社では、新しい規律に適合した議案を作成する必要がある(@)。改正法施行前の総会に付議する場合も、改正法の要件を満たしておくのが良い。

また改正法施行以前に株式系の報酬等の決議をしている会社で施行後も株式等の交付が予定されている会社の場合には(交付済みのものは有効である)、その過去の決議の効力について検討する必要がある。改正法施行前の株主総会決議でも、改正法の決議要件を満たしていれば、そのまま有効であり、改めて決議し直す必要はないとされている。そのため、要件を満たしているかのチェックをする(A)。満たしていない場合の決議の効力についても、改正法附則第2条ただし書によって、すでに株式等を受け取る権利が発生済みであれば、効力は維持されるとされている。したがって、発生済みかどうかをチェックする必要がある(B)。発生済みでない場合は、再度決議し直すことも考慮しなければならないであろう。

来年は、新型コロナの影響で業績や株価が大幅に予想と齟齬している会社があり、報酬プログラムの中断・再設計等を検討している会社も多いので、要注意である。

2.株主総会での審議等

役員報酬等の改訂議案がある場合、株主総会での説明義務の範囲が変更になっている。改正法361条4項は、従前、不確定金額報酬等及び非金銭報酬等について、「相当とする理由」を総会で説明すべきこととしていたが、改正法では、すべての種別の報酬等について「相当とする理由」を説明すべきこととした(C)。そのため、金銭報酬等の議案であっても、株主総会参考書類に、「相当とする理由」を記載することになる(会社法施行規則73条1項2号)。会社法施行規則82条(報酬等の議案に関する参考書類)は改正されていないが、この点は留意が必要である。

また改正法では「取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針」を決議する義務が設けられており(会社法361条7項)、これは報酬等の議案を適切に理解、判断するために必要な情報であろうから、総会での説明義務が生じる可能性が高い。したがって、当該報酬等の決議後に予定している「方針」について、総会で質問があれば説明する準備が必要である(D)。

そうであれば、従前会社法施行規則121条6号(改正後6号の2)で定められていた「各会社役員の報酬等の額又はその算定方法に係る決定に関する方針」も説明するべきであろう(E。改正会社法施行規則121条6号は監査等委員ではない取締役や執行役。6号の2はそれ以外の会社役員)。

今回の改正で、会社法の報酬規制は企業価値向上等のための報酬制度の構築と株主によるモニタリングという視点を大幅に強めており、それに照らすと、過去の説明義務に関する判決例はお手盛り防止だけの立法趣旨から導かれており、改正法の下では先例として参考にならない可能性がある(例えば京都地裁平成元年8月25日)。

また、株主総会において参考書類も含めて詳細な報酬制度の方針や設計を説明するようになると、その説明自体は決議対象ではないにしても、そのように株主に説明しておきながら、後からそれを変更することは可能なのかということも疑問として生じる。どのような場合に報酬等の改定議案を提出すべきかということも留意点になる。

なお、事業報告の報告がある場合、事業報告にも報酬等の記載事項が大幅に追加されているので(会社法施行規則121条4号以下、122条、123条)、報酬等議案の有無に拘わらず、それらについて説明義務が生じる(F)。

3.個人別報酬等決定の方針

上記の通り、改正法では「取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針」の決議義務が定められた。これは取締役会で決議しなければならない。決議すべき事項は、規則で定められている(会社法施行規則98条の5)。決議をしないと報酬等は無効であると解されている。この決議義務は、特段の経過規定がないため、来年3月1日の施行時点で効力が生じる。そのため、実務的にはその時点までに、つまり施行前に決議をしておくのが良い(G)。既に報酬等決定の方針について、取締役会で決議している会社は、その決議の内容が規則の求める事項を網羅しているか、チェックする(H)。

方針等について取締役会で決議していない場合、または決議事項が改正法を満たしていない場合、施行前に決議しておくことになるが、その決議と今年度の役員報酬等の支払いとの関係が問題となる。おそらく今年の6月の定時株主総会の後に一任決議をして決定していると思われるので、新しい方針と適合していない可能性があるからである。既に発生済みの権利については、方針決議がなくても有効であると思われるが、たとえば方針の中で今年度分について経過規定を設けるなど、整合性を持たせることも考えられる(I)。

方針においては、決定を取締役等に一任する場合、その「権限が適切に行使されるようにするための措置を講ずることとするときは、その内容」を定めることになっている(会社法施行規則98条の5第6号)。任意の委員会に諮問する等、何らかの措置をとる会社が多いであろうから、この措置をどうするかを決めておく(J)。

またこれを含めて、個人別の報酬等の内容についての決定の方法を定めなければならないから、報酬等決定プロセス全体を見直す必要がある(K)。今は取締役会で社長に再一任する会社が多いけれども、報酬決定の方針に加え、上記の適切行使措置、さらに後に述べる取締役会による個人別報酬等の方針への適合性の検証を考えると、個人別報酬等の関係者間での開示は避けられず、社長への丸投げ的な再一任の仕組みは見直されるのではないかと思われる。

今回の改正により、報酬等の決定に関しては、その方針を定める義務、その方針に従って決定する義務、適切に行使される措置の構築義務(法文では任意だが善管注意義務の観点からは無視できない)、その妥当性を検証する義務(同前)など、取締役の善管注意義務の内容が格段に充実してきていると思われるので、そのプロセスにおいても、十分な手続きと十分な情報の開示、社外役員の関与等配慮が必要である(L)。決定者による決裁書や委員会に提出される資料など、十分裁判所でも通用するようにしなければならない。

4.事業報告での開示

事業報告における報酬等の開示も大幅に拡充されている(会社法施行規則121条4号以下)。内容は、開示府令による開示事項とかなり重複しているが、違う点もあるので留意が必要である。分類すると、方針に関する事項、報酬等の支給額やその内訳に関する事項、株主総会決議に関する事項、決定の委任に関する事項などである。

改正会社法施行規則附則第2条11項によると、施行日前にその末日が到来した事業年度のうち最終のものに係る事業報告は、従前の例によることとされている。各社、新法か旧法か、確認する必要がある(M)。たとえば三月末が期末となる会社において、施行前に新しい方針を決議したとき、あるいは施行後や、期末後に方針を決議したときに、どの方針を事業報告に記載すべきか説が分かれるので対応を検討する(N)。基本的には、元は方針がなかったのであればなかったこと、元から方針があったのであればその内容、新たに決定した方針の内容等、株主が分かりやすいように記載すれば良いであろう。

当該事業年度に係る取締役の個人別の報酬等の内容が方針に沿うものであると取締役会(指名委員会等設置会社の報酬委員会)が判断した理由も記載事項であるから、この点取締役会で審議して判断する必要がある(O)。初年度は、方針の定めがないまま個人別の報酬等の内容を定めている会社もあるであろうから、「方針に沿う」との判断や理由付けに関しては、丁寧に検討する必要がある(P)。参考に有価証券報告書に記載した方針との適合性をチェックすることも考えられるかも知れない。

以上

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