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中村直人弁護士コラム 第93回

令和元年改正会社法(4)
補償契約・役員等賠償責任保険契約の規律

弁護士 中村直人

令和元年会社法改正により、補償契約とD&O保険について、「第十二節」として新たな規整が設けられました。

補償契約というのは、改正法430条の2第1項に規定するもので、会社が役員に対して一定の費用等を補償することを約する契約です。補償できる費用や損失は、役員が責任追及を受けたときの防御費用と、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合の損失(賠償金や和解金)とされています。ただし、一定の場合には、補償ができないこととされており、費用については、通常要する費用を超える部分、損失については、@会社が損害賠償をしたときには役員等に対して求償できる場合と、A役員等に悪意又は重過失があったとき、とされています(同条2項)。したがって、費用については、役員等に悪意や重過失があっても補償することができます(ただし、図利加害目的がある場合は別です。同条3項)。

補償契約を締結するには、取締役会設置会社では取締役会の決議で補償契約の内容を決定する必要があります(同条1項)。「契約の内容」が何を指すのか明確ではありませんが、どういう場合に、いかなる要件で、何について補償をするのか、その上限金額や条件、支払時期等、補償契約の重要な内容は決議するものと思われます。その取締役会決議について、補償契約の相手方たる取締役は、特別利害関係人に当たるとされています(高橋陽一「会社補償及び役員等賠償責任保険(D&O保険)」旬刊商事法務2233号19頁)。したがって、取締役全員と締結する場合は工夫が必要になります。また契約の内容に契約の相手方が入るかどうかまだ明らかではありませんが、特別利害関係人に当たるとなると契約の内容に含まれるという解釈になりそうです。するとたとえば初年度に在任役員全員との補償契約の内容の決定の決議をしたあと、翌年に新任の役員が選任されたときに、その新任者と補償契約を締結するのには再度取締役会決議が必要になるかどうか検討の必要があります。

補償契約は、個別の問題が生じたあとに締結することも可能だとされています。また従来の委任契約に基づく補償も改正施行後も可能であるとされています。それ以外にD&O保険もあります。そのため、補償契約を締結することのメリットは、それら他の制度と比較するとどうかということになります。損失(賠償金等)の補償に関しては、上記@の制限や対会社責任を補償できないという点があるので、D&O保険の方がカバーが広くなりそうです。ただし、D&O保険には上限金額があります。費用の補償に関しては、悪意・重過失があっても可能なので、委任契約に基づく補償等より広くなりそうです。総合的に見ると、それほど大きなメリットがあるというわけでもなさそうで、実務では、直ぐ補償契約を締結した方がいいのか迷われる会社が多く、他社の様子見という感じもしています。

その他、補償契約を締結しますと、事業報告での開示が必要になりますし(施行規則121条3号の2、3号の3)、株主総会参考書類での開示も必要になります(施行規則74条1項5号等)。株主総会参考書類では締結予定の場合も開示しますので、締結するかどうかは株主総会参考書類の作成までに決めておくのが良いでしょう。

次にD&O保険ですが、D&O保険についての手続や開示に関して規整がなされています。D&O保険を締結するには、取締役会の決議が必要になります(改正法430条の3)。法律施行前に締結されたD&O保険については、特段の対応は必要がありません(改正法附則7条)。しかしD&O保険契約は通常1年おきに更新ではないかと思われ、その更新の際に取締役会決議が必要かどうかという問題があります。立法担当官の説明では、「実質的に判断すべき事象が起きたときには取締役会で検討頂きたい」としているので(旬刊商事法務2230号29頁)、実務では安全サイドで更新時に決議をするところが多くなりそうです。

決議すべきD&O保険の「内容」としては、約款そのものを決議対象とする必要はなく、保険会社、被保険者、保険料、保険期間、保険金の支払い事由、支払限度額、填補範囲、免責事由や特約条項などでよいものとされています。この決議に関して、被保険者となる取締役は、一定の場合、特別利害関係人に当たるとされていますが、取締役の全員が当該決議について共通の利害関係を有しているときは議決に加わることができるとされています (塚本英巨「会社補償・D&O保険の実務対応」旬刊商事法務2233号37頁、41頁注8)。

D&O保険については、事業報告の記載事項となる他、株主総会参考書類の記載事項となるのは、補償契約と同様です(施行規則74条1項6号、121条の2等)。

改正法施行前に、D&O保険の代表訴訟特約部分の保険料の負担について、経産省コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会の報告書(平成27年7月24日)で、社外取締役が過半数である任意の委員会の同意を得ることまたは社外取締役全員の同意を得ることにより、その保険料を会社が負担して良いとする解釈が行われていました。これに関し、税務上の取扱いとして、改正法施行後は、改正会社法の規定に基づき会社が保険料を負担した場合には、その負担は役員個人に対する給与課税とはならないとされています(経産省令和2年9月30日「令和元年改正会社法施行後における会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて」)。ただ、税務上はともかく、「職務の適正性が損なわれないようにするための措置」(施行規則121条の2第2号)も必要でしょうから、社外取締役の同意を今後も得ていくことも考えられます。

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