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中村直人弁護士コラム 第94回

改訂版コーポレートガバナンス・コードへの対応

弁護士 中村直人

本年6月11日から改訂版のコーポレートガバナンス・コードが施行されている。企業としては、当面改訂版に対応したガバナンス報告書の更新を、速やかに、かつ、遅くとも本年12月末日までに行う必要がある。さらに新市場区分に従い、来年4月4日以降、プライム市場上場会社はプライム市場向けの内容を含めた対応をする必要がある。

今回の改訂は、企業人にはどう映っているのだろうか。これまでと同じような内容の繰り返しのように見えている人もいれば、ESGばかり目につくと思う人もいるだろう。今回の改訂の視点を筆者なりに分析してみたい。

第一の視点は、「これまでの対策の深化」である。社外取締役の比率を3分の1以上にしようとか、スキル・マトリックスを開示しようとか、事業ポートフォリオの基本方針を取締役会で決定しよう等、従来の要素をより強化したものである。

第二の視点は、ESGである。今回の改訂では、ESG要素を含むサステナビリティが非常に重視されていて、サステナビリティへの適切な対応が強く求められている。その基本的な方針の策定や開示など、新たな課題が課せられている。

第三の視点は、東証の新市場区分である。東証の新市場区分でプライム市場上場会社となる会社には、より高いガバナンス体制が求められる。独立社外取締役が3分の1以上要請されたり、気候変動に係るリスク及び収益機会の自社の事業活動に与える影響についてTCFD等による開示が求められたりしている。

第四の視点は、「コロナ後」である。今回のフォローアップ会議の始まりも、コロナ禍を受けてといっても良いくらいである。コロナ禍のあと、企業は大きく変わっているだろう。市場構造も大きく変わっているだろうし、DXや働き方の変化など、大きなリスクとチャンスが待ち構えている。それに対応できる経営を後押ししていくため、変革と持続的な企業価値向上を実現させるというのが大きな視点である。

さらに第五の視点がある。改訂版を読むと、「人的資本」とか「人的資本への投資」、「中長期的な企業価値向上に向けた人的資本」などという言葉が並んでいる。また「中核人材における多様性の確保」などという言葉が並んでいる。これは少々複雑である。たくさんの意味を含んでいるのである。人的資本の育成などというと、日本企業のお家芸のようなもので、終身雇用制や日本型経営の最たるものと思われるかも知れないが、今回の視点はそれとは異なっている。まず労働関係は、ESGの「S」の重要な課題である。人材の多様性や包摂性は、今や労働者だけの問題ではなく、世界的な関心事になっている。適切な環境を整備できなければ、社会から大きな批判を受ける。また、人材は、長期的な企業価値向上のために必須のものである。意外なのは、フォローアップ会議に出された調査資料では、人的資本に対する投資を重視している経営者は37%に過ぎないのに対し、投資家は62%が重視している(ちなみにその調査結果では、日本の経営者は設備投資ばかり重視している。時代錯誤だ。)。コロナ後の雇用体制として、ジョブ型といわれる仕事に応じた採用・人事形態に対する理解が深まっており、働き方は大きく変わろうとしている。Z世代と年配者の間には、大きなギャップが生じている。さらにガバナンスの観点からは、日本企業は、新入社員と社外取締役には女性が存在しているが、管理職には女性がほとんどいない。外国人も同様である。今回「中核人材における多様性の確保」を掲げたのは、頑強に凝り固まった日本企業の人事制度を解きほぐしていくためであろう。女性、外国人、中途採用、ジョブ型といった新しい形が目前に迫っている。それを達成した会社が、新しいグローバル企業としてのガバナンスといえるのである。

ガバナンスというのは、経営者に対する監督の仕組みであるが、今回は、いかなる経営をするかということに対して、中核人材のあり方など、その内容にまで手を突っ込んでいる。それは本当は、ガバナンスの問題ではない。そのため、あくまでも開示制度であり、コンプライ・オア・エクスプレインだということになっている。しかし企業としては、これは前兆であり、今後Eだけでなく、Sも重視されてくること、新しい雇用形態への移行が迫っていることなど、実質的な変革が求められている。従前のCGコードは、形ばかり従っておく、というのが実務の知恵であったが、だんだんそれだけでは乗り切れなくなってきた。12月までに形だけ整えるというのも1案だが、深く考えた方が良さそうである。

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