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中村直人弁護士コラム 第98回

三ツ星事件決定と買収防衛策の留意点

弁護士 中村直人

三ツ星事件で買収防衛策の差止めを命じる仮処分決定がなされた。地裁から最高裁まで、同一の判断であった(資料版商事法務461号143頁以下)。買収防衛策としての新株予約権の発行差止事件は相次いでおり、その結論も差止を命じるものと認めないものに分かれている。本件は、先立つ東京機械製作所の新株予約権と内容はかなり類似しているものであったが、結論は逆になった。なぜこんなに分かりにくいことになったのだろう。

敵対的買収に関しては、買収する手法についても特に会社法には具体的な定めがないし、防衛策についても定めはない。仮処分事件で登場する会社法の条文は、「株主平等原則」(法109条)と「著しく不公正な方法」(法247条)だけである。どちらも抽象的な規定に留まる。また会社法と敵対的買収の関係をいえば、会社法は「株主利益最大化原則」に従っているから、企業価値が増大する買収は良い買収で、そうでない買収は良くない買収だという単純な図式になる。

しかしこれだけでは、何ら具体的な解決の基準にならない。そこで裁判例や学説では、これを分解して、「必要性」と「相当性」という要件に分けている。必要性は、防衛策発動の必要性、すなわち企業価値が破壊されるかどうかということである(元々は)。言い換えれば、どちらが経営権を獲得する方が企業価値が向上するかということである。しかしブルドッグ事件の最高裁決定は、企業価値については、裁判所が判断するのではなく、最終的には株主が自分で判断しろ、という基準を立てた。そこで株主意思決定総会が登場することになった。その結果、本当は一番重要な要件である企業価値が向上するのかどうかということについて、裁判所は判断せず、防衛策の要件から事実上外れてしまった。

学説上、必要性の内容についても、意見が分かれている。買収の手法が強圧的だからその手法は適切でないという趣旨なのか、株主が買収に応じるかどうか検討する時間と情報が足りないという趣旨なのか、それとも企業価値が損なわれるかどうかという趣旨なのか、混乱している。また相当性については、何をもって相当とするのか、意見が分かれる。脅威の内容に見合った対策という趣旨なのか(たとえば検討する時間が足りないというのであれば、時間を延引する程度の防衛策が適切となる)、買収者に過重な不利益を与えないという趣旨なのか、分かれる。要するに、会社法には敵対的買収に関する具体的な法規制はない中で模索しているのである。

また敵対的買収というのは、個別性が強く、買収に至る経緯や交渉の状況、防衛策の内容等、極めて多様性に富んでおり、個々の事件ごとに判断が分かれる。そのため裁判所の決定に関しても、予見可能性が乏しい。予見可能性が乏しいので、「勝つかも知れない」と思えば、リスク選好的な投資家は敵対的買収にチャレンジするインセンティブが生じる。逆に大規模な事業会社などリスク回避的な企業は敵対的買収を躊躇する。本来、後者の方がシナジーなどで企業価値向上に資するとするならば、インセンティブの構造がゆがんでいることになる。さらにいえば、ターゲットとなった会社にとっては何が何でも防衛したい動機に駆られ、冷静で合理的な判断を欠いたり、過剰な対応をしやすい状況に陥る。

このように法律の具体的規定がないこと、強い個別性/多様性、インセンティブの歪みという3つの要素で、よく分からない世界になってしまっているのである。一体、敵対的買収で企業価値、ひいては経済全体の価値が向上しているのだろうか。

それはともかく、三ツ星事件決定を踏まえて、買収防衛策について実務上の留意点を挙げてみよう。まず第1に、大規模買付者/買付行為の定義の見直しである。本件では、市場買い付けの後、同調者が現れて大きなボリュームになった。そこで大規模買付者/買付行為の中には、そのような同調者や共同協調行為を含めておく。第2に、株主意思確認総会の運営方法である。本件では、買収者に委任状を渡した者を新株予約権の不適格者としたため、それを恐れて株主が会社提案に賛成したのではないかと疑問を呈されている。したがって、株主意思確認総会では、株主の意思を左右するような圧力はかけないことが必要である。そもそも株主意思確認総会は、会社法上の正式な総会や議題ではなく、法律上の規律がない。ここも空白地帯である。この位置づけを整理する必要がある。まず株主意思確認総会では、何を審議対象、決議対象とするのか、明確にする。この買収が企業価値を破壊するかどうかなのか、買収の手法が強圧的なのか、検討する時間と情報が足りないということなのか。それによって、MoMを採用できるかどうかも異なってくる。総会の資料では、誤った説明や根拠のない説明は避ける。買収者側にも適切な情報提供機会を設ける。第3に、防衛策の設計である。特に有事導入株主意思確認型の場合、買収者側の撤回の手続き(防衛策発動を停止するための条件)を明確にすることである。本件では、この撤回手続きが明確でないことが敗因につながっている。なぜ撤回手続きが重要なのか。有事導入株主意思確認型であると、買収者は、もし株主意思確認総会で買収を否定されたら、撤回することで不利益を回避することができる。撤回によって双方に合理的な仕組みになっているのである。この場合、本件のような共同協調行為型の類型では、どうすれば撤回したと認定できるのか、設計は難しい。かといって、過大な要求をすると、不当な株主権の制限であって相当性を欠くといわれてしまう。最大限有利な主張をしようなどと思わないことだ。第4に、独立委員会の運営方法である。本件では、独立委員会の勧告の存在が重視されなかった。それは非適格者の認定手続きなどで経営者の恣意をどう排除するのか審議状況が明らかでないとされたためである。したがって、独立委員会では、買収防衛策の内容やその運営について、経営者の恣意的な判断が行われないか等を適切に審査し、それを証拠化し、公表したり、裁判所に提出できるようにしておく必要がある。

そのほか、本件のような急速な買い集めや協調行為に対応できるよう防衛方針のスケジュールを見直すとか、公開買付型(強圧型/全部買付型)、市場買い集め型、協調行為型など、それぞれの類型ごとに、どう対応できるのかシミュレーションをしておくことである。

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