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中村直人弁護士コラム 第99回

サステナビリティ開示の始まり

弁護士 中村直人

開示府令が改正されて、この3月末から有価証券報告書でサステナビリティ等の開示が始まる。開示事項としては、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄を設け、ガバナンス、リスク管理、戦略、指標及び目標の4項目を記載する。サステナビリティといっても、投資家向けの開示であり、いわば企業のサステナビリティであって、地球環境や人間社会のサステナビリティそのものではない。サステナビリティを脅かす要素としては、高齢化、富の偏在、経済社会のデジタル化、自然災害、疫病、サイバーセキュリティの6つがあるとされる。そのため、リスクの中には、データセキュリティなども含まれる1

有報であるから情報開示規制なのであるが、実は、行為規制と見た方がよい。「ガバナンス」というのは、「サステナビリティ関連のリスク及び機会を監視し、及び管理するためのガバナンスの過程、統制及び手続」をいい、「リスク管理」とは、「サステナビリティ関連リスク及び機会を識別し、評価、及び管理するための過程」をいう。要するに、体制のことであり、これを開示しろと言われれば、その体制をきちんと構築しなければならない。またこれらの記載事項には必然的に将来予測が含まれるところ、もしそれがはずれたら虚偽記載の責任を問われるリスクがあるが、「企業内容等開示ガイドライン」5-16-2では、その点を配慮して、記載事項と実際に生じた結果が異なる場合であっても、一般的に合理的と考えられる範囲で具体的な説明が記載されている場合には、虚偽責任を負わないとされており、金融庁のパブコメ結果では、例えば取締役会等の会議で合理的な根拠に基づく適切な検討をしていれば、その旨を記載することがそれに当たるとされている(214〜217)。したがって、会社としては、取締役会等でサステナビリティに関する考え方やガバナンス、リスク管理の体制を構築し、将来情報については合理的な根拠をもってしっかり判断してその記載をしなければならない。つまり有報だからといって、経理の担当者に「うまく書いておけ」と任せきりにすることはできない。それが行為規制の実質である。

有報では、近年こういう実質的な行為規制が多用されている。【経営方針、経営環境及び対処すべき課題】や【事業等のリスク】、【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー状況の分析】、【コーポレートガバナンスの状況】など、経営者が主語になっている項目は、みなその内容はきちんと経営者あるいは取締役会が方針等を決めなければ記載できない。今回のサステナビリティ情報は、上記の経営方針等や事業リスク等の項目とも内容的に密接に関連しており、全体として経営者・取締役会としての意思決定をしなければならないであろう。さらにCGコードやCGSガイドラインでも、サステナビリティに関して取締役会が取り組むことが求められており(補充原則2-3@等)、そちらとの整合性も必要だ。法務部門としては、文章を起案することより、しっかりした意思決定を取締役会等ですることが課題である。

                                                           

1神田秀樹編「企業法制の将来展望 資本市場制度の改革への提言」2023年度版参照

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