株式実務とガバナンスサポートの
ベストパートナー

東京証券代行は証券代行の専門会社です。
株主名簿管理人として株式実務や株主総会運営のアドバイスはもとより、
株式新規上場のお手伝いやコーポレートガバナンス全般にわたるコンサルティングなど、
お客さまを全力でサポートいたします。

  1. ホーム>
  2. 中村弁護士コラム>
  3. 中村弁護士コラム 第100回

中村直人弁護士コラム 第100回

東証の「PBR1倍未満」通知の意味

弁護士 中村直人

東証は本年3月31日、上場各社に対して「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」と題する通知を発した。その中で、特にROE8%未満、PBR1倍割れの会社をターゲットとして、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けて重要と考えられる対応を求めている。その内容は、たんに抽象的に注意喚起するのではなく、現状分析(資本コストの把握や取締役会での現状分析)、計画の策定・開示(取締役会で改善に向けた方針や目標・計画期間の策定、開示)、取組の実行(計画の実行、投資者との対話)となっており、取締役会による分析、目標設定、実行、開示というプロセスを求めるものになっている。まさに経営そのものである。

これはガバナンス改革の新しいフェーズである。従来のガバナンス改革は、2つの考え方に基づいている。所有と経営の分離論に基づき、監督者を置けば経営者は株主の期待するとおりに働くはずだ、というものと、エージェンシー理論に基づき、株主と経営者の利害を一致させれば経営者は株主の期待するとおりに経営するはずだ、というものである。どちらも、経営は株主の意向通りになされるべきだという前提に立っている。そこで社外取締役、指名委員会の設置やその実効性評価などの監督機能の強化、業績連動報酬や責任限定制度などの役員の利害状況の改善が行われてきた。しかし結局失われた30年になってしまったのである。その原因は明らかだ。日本人は、株主主権という考え方を持っていない。従業員主権である。だから、社外取締役を導入しても、社外取締役は「資本コストを下回る収益性の事業や資産などは処分してしまえ」などと要求しない。経営者も、業績連動報酬をもらったからといって、その指標を上げて自分個人の利益の最大化を図ったりしない。業績連動報酬の有無にかかわらず会社のために働いている。だから株主主権という前提に立った諸施策は、空回りするのである。この30年間にわたるガバナンス改革が功を奏さない理由である。

今回の東証の方向性は、経営の内容に介入するものである。従来のガバナンスは「監督」に偏っていた。ガバナンスという言葉も、経営者に対する監督のことだと理解されている。しかし企業価値を決めるのは、経営方針であり、経営者である。監督は補助装置に過ぎない。ガバナンスという言葉も、元々は船の舵取りという意味だという。本当に重要なのは経営の中身であるから、そこに着眼したのは当然の成り行きである。しかし相変わらず内容は、資本コスト・資本収益性を十分に意識した経営資源の配分、事業ポートフォリオの見直しだという。日本の実態が従業員主権のままの状態で、いくら株主主権の考え方を要求しても、社会は容易には変わらないだろう。

世界はすでに株主主権の時代すら終わり、EUやアメリカでは進化したマルチステークホールダーの考え方が広まっている。今の日本の従業員主権は、ここ30年間、その会社に現在する正社員の雇用を守るという目的だけに歪んでしまっている。それが新規事業もせず、不採算事業も整理せず、DXの抵抗勢力にすらなっているという批判になっている。EU的なマルチステークホールダーでもないのである。日本はすでに2周遅れのところでもがいているのである。新しいことにチャレンジしようという劇的なメンタリティの転換が必要であろう。

© 2023 Tokyo Securities Transfer Agent Co., Ltd. All rights reserved.

利便性向上、利用分析等のためクッキーを使用してアクセスデータを取得しています。
詳しくは「このサイトのご利用について」をご覧ください。オプトアウトもこちらから可能です。