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中村直人弁護士コラム 第101回

株主総会に出席する代理人を株主に限る旨の定款規定と弁護士

弁護士 中村直人

最近、株主総会に弁護士を代理人として出席させることを求める判決例が続いている(札幌高裁令和元年7月12日 金商1598号30頁、東京地裁令和3年11月25日 LEX/DB25601486)。この問題は、すでに最高裁の判決で決着がついているのであるが(最判昭和43年11月1日民集22巻12号2402頁)、それにもかかわらず、下級審でそれと異なる判決が出されるのは、普通ではない。すでに総会屋はほとんど絶滅し、総会屋に攪乱されるおそれはほぼない。一方、株主との対話が求められている時代である。さらにいえばバーチャル総会では、株主資格がない者が総会に参加してしまうのは避けられない状況である。一部の学説では、これらの判決例は、時代が変わり、定款による代理人制限は時代遅れで、もう弁護士の代理人であれば株主総会に入れろというメッセージではないかという。もしそうなると、実務はおおごとである。総会の受付の手順や体制を変更しなければならなくなるし、ひいては定款変更も必要になりかねない。

しかし筆者が見るところ、これらの判決例は、上場会社は射程に入ってこないと思う。以下、それを検討してみよう。

まず札幌の事案は、非公開会社の事案であり、長年係争してきて、最高裁で原告が株主であることが認められていた事案である。原告代理人弁護士は、委任状に実印を押し、印鑑証明書を付して、受付に提出した。会社側は、それが届出印と違うという理由で入場を拒否した(従前の議決権行使書による行使では、実印の印影で有効としてきた)。非株主(弁護士)の代理はできないという理由ではなかった。しかし長年係争していたので、会社側も同弁護士とは面識があり、同人が当該株主の代理人弁護士であることは知っていた。それを踏まえ、裁判所は、以前から面識があって当該弁護士が株主総会を攪乱する人物でないことが明らかだったのに、従前許容してきた印影であるにもかかわらず、印影不一致を理由に入場拒絶したことは法令違反・著しく不公正であるとした。この事案は、株主数の少ない非公開会社の事案であり、以前から面識のある弁護士が代理人となったもので、判決文からは明確でないが、特段株主総会を攪乱させるようなおそれがある経緯、人物ではなかったことが一件記録から分かる事案であったのだろう。しかも会社側は、理由にならない理由で入場を拒否している。そこで裁判所は、会社の取り扱いを不当と認めたのである。

このようなケースは、上場会社では考えにくい。会社側と面識があって、しかも、総会を攪乱する者ではないことが明らかな事例というのは、なかなかない(この判決は、「弁護士であれば、誰でも攪乱のおそれがない」といっているわけではないと思う)。しかも理由にならない理由で拒否していながら、裁判になって定款規定を持ち出したのである。

もうひとつ、東京地裁の事例であるが、これも非公開会社の事例であり、株主は7名だけで、原告株主以外は、全員会社側である。なにかの事情があって原告は社長を辞任し、その後病気になった。その代理人弁護士は、平成31年の総会では原告の代理人として株主総会に出席を認められていた。特に議事を混乱させることもなかった。令和元年は出席を拒否された。令和2年になり、原告が病気であることなどの理由を述べて事前に代理出席の要請書を提出したが、認められなかった。原告は、他の株主は皆会社側なので、ほかの株主に代理人を見つけることができない。裁判所は、ほかに信頼できる株主がいないこと、会社側も事前に代理行使を認めるかどうか検討する機会を与えられていたこと、拒否すれば事実上議決権行使の機会を奪うことになること、などを認定して、当該弁護士を入場させれば総会が攪乱され非公開会社の株主共同の利益が害されるおそれがあるという特段の事情がない限り、入場拒否は法令違反に当たると判示した。

本事案は、株主本人は病気で総会の出席ができず、株主は7名しかいなくて原告以外の株主は会社側であった。しかも過去には代理出席を認めたこともあった。このようなケースでは、入場拒否は、事実上、原告の議決権行使の機会を奪うことになる。

両事案は、いずれも非公開会社であり、固有の事情がある。裁判所の判断の基準は、「当該事案の公平な解決」であったと思う。大勢の株主が存在する上場会社であれば、個別の事情で総会の受付方法を柔軟に変えるということは考えにくい。不特定多数の株主が来場することを前提に、一律で即時的で運用可能な明確な判断基準を適用するほかない。上場会社の場合には、個別の事案解決の公平性ではなく、「ルールの適切性」が重要なのである。「会社法事件」なのか、「一般民事事件」なのかと言い換えてもいい。

ひとつ定款規定の効力を認めた判決例を紹介すると、大盛工業事件判決(東京高裁平成22年11月24日 資料版商事法務322号180頁)は、「株式会社は、株主総会に株主ではない代理人が来場した際には、その都度その者の職種を確認し、株主総会をかく乱するおそれの有無について個別具体的に検討」することになれば、「明確な基準がないままに実質的な判断を迫られ、その結果、受付事務を混乱させ、円滑な総会の運営を阻害するおそれがある」と判示して、あらかじめ弁護士が議事をかく乱しない旨の誓約書を提出している場合であっても、代理人資格を限定することは許されるとした。

以上によると、裁判例は揺れているように見えるが、上場会社では、当面、従前の受付の運用体制で足りるのではないかと思う。ただし、このあと、より普遍的な事例で定款規定の効力を制限する判決例が出ないとも限らないので、この論点は注視しておく必要がある。

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