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中村直人弁護士コラム 第104回

株主提案(2) 最近の株主提案と実務上のチェックポイント

弁護士 中村直人

一昨年来、株主提案権の行使が増加している。その内容も、環境関連やガバナンス関連など多様化している。判決例や学説上の論点も変化しているので、株主提案権の行使を受けた場合の対応上の論点を箇条書き的にピックアップしてみたい。字数の都合上、論点を掲記し、参考文献を注記する。

株主提案権の行使を受けた場合、まずはその形式要件を確認する。持株要件や個別株主通知などの手続き要件等である。

次に提案議題・議案の適法性を確認する。最近では、買収防衛策廃止議案の可否や勧告的提案の可否、業務執行に介入する議案の可否など、判決例1や学説が議論する論点が増えている。役員報酬額の引き下げ議案や一定以上の社外取締役を要求する定款変更議案なども、その効力が問題となり得る2

提案理由については、その掲載上の問題がないか検討する3。しばしば名誉毀損的な記述や固有名詞の記述が見られる。提案理由の字数については、株主総会資料の電子提供が始まった今、制限する必要があるのかどうかということも問題となり得るし、会社側の開示との公平性も考慮する必要がある。

それに対する取締役会の意見も検討する。最近は、ESG関連など、その趣旨自体には反対でない提案も多く、慎重な検討が必要である4。意見の形成にあたっては、執行側でまずは検討するのであるが、最近は社外役員に対する説明や意見聴取が重要になっている。提案に反対するにせよ賛成するにせよ、きちんと社外役員と議論をして納得してもらえるようでなければいけない。ESG関連とか、剰余金分配関連、役員報酬関連、社外取締役の要請や政策投資株式の売却など、正面から反対できない提案もある。これらは、東証からの要請でPBR一倍未満対策として行っていることや、有価証券報告書にサステナビリティ開示等として開示している内容など、会社のそれまでの行動と一貫した説明ができなければいけない。

取締役会での決定に際しては、取締役解任議案が提案されているときに当該取締役を特別利害関係人とするかどうか確認する5

招集通知や議決権行使書などのデザインについては、取締役会提案と株主提案の混同で誤った賛否の表示がなされないよう実務ではさまざまな工夫がなされているので、それも検討する。

株主提案権の行使があったことの適時開示をするかどうかということも検討する。その開示の後、株主総会参考書類での開示以外に、任意の開示として取締役会の意見を公表するかどうかも検討する。機関投資家などに個別に説明するかどうかや、別途の説明資料を作成するかどうかも検討事項である。やはりフェアな開示が必要であり、情報提供の格差には留意する。

株主提案権の行使があったとき、議決権行使の促進をしたいという動機が生じるが、議決権行使者に対して金券を配布するなどの促進策については、下級審判決例の動向もあり6、実務では慎重な傾向にある。

委任状勧誘をする場合には、参考書類の提供や届出などに関して、株主総会資料の電子提供の始まりとともに若干不明確な点があるので7、留意する。

取引先等の株主に対しては取締役会意見に賛成してもらうよう働きかけをしたいところであるが、優越的な地位の利用や営業上の利益誘導など、アンフェアな活動は避けるべきである8。経産省の「企業買収における行動指針」でも、取引先株主に対する優越的な地位に乗じた働きかけは否定されており、それが今の流れである。

また株主総会当日の動議への対応のため、包括委任状を入手したいところであるが、最近は政策投資株式の保有者などはそれを出さない傾向が強まっている。そのため動議への対応については検討を要するケースもある9

総会当日の審議においては、提案株主に発言の機会を与える必要がある。具体的には、事前にどのタイミングで何分間時間を与えるかなど提案株主サイドと協議することが多い。バーチャル総会の場合の対応も検討が必要である。

また質問への対応方針も決める必要がある。提案株主から会社側への質問への対応のほか、株主提案議案に関する他の株主から会社側への質問、提案株主に対する他の株主からの質問等の対応である。説明義務の範囲については、株主提案と競合する取締役会提案がある場合とない場合で分けて検討する。

採決の見通しについては、拮抗する可能性があるときには、十分な準備が必要である10。場合によっては、当日投票の用意が必要な場合もあるし、対抗する取締役会提案の取り下げの可能性もある。いつの時点のどの情報で、いつの時点でその判断をするかを予め決めておく。投票になった場合の段取りについては、投票方法、投票方法の説明方法、開票方法等、十分な準備が必要である11

また取締役選任議案が重複していて全員が可決されると定款の員数制限を超えてしまう場合などは、その採決方法を検討しておく。また取締役選任議案で株主提案と取締役会提案で重複する候補者がいる場合の採決方法も検討しておく12

採決結果については、票数をどのように集計するか、全数か事前行使分だけか等、検討しておく。

株主提案権の行使があった場合、翌年も同じ株主から同様の提案がなされることが多く、そのような連続提案に備えて、今年の対応の状況についてしっかり振り返りをしておき、翌年の対応に備えておくと良い。

  • 京都地裁決定令和3.6.7資料版商事法務449号90頁、東京高裁決定令和元.5.27資料版商事法務424号118頁など
  • 荒達也「株主提案権」法学教室421号11頁、邉英基「株主提案と組織再編・自己株式取得」旬刊商事法務2272号56頁、拙稿「サステナビリティと実務の留意点」NBL1243号4頁
  • 東京地裁判決令和2.11.11金商1613号48頁など
  • 三谷革司「2024年株主総会に向けての留意点」旬刊商事法務2350号39頁
  • 辰巳郁「株主提案による取締役の解任議案の上程等と特別利害関係取締役」旬刊商事法務2320号56頁
  • 東京地裁平成19.12.6資料版商事法務286号431頁、東京高裁決定令2.11.2資料版商事法務441号62頁、経産省「企業買収における行動指針」29頁も参照
  • 野澤大和ほか「アクティビストの最新動向と対応実務」資料版商事法務467号98頁
  • 松山遥「2024年株主総会の最新動向と準備・運営上の留意点」資料版商事法務478号46頁
  • 北村雅史ほか「会社法における会議体とそのあり方〔U〕」旬刊商事法務2327号42頁の手続動議対応委任状の議論参照
  • 磯野真宇「賛否拮抗総会において生じる諸論点に関する近時の実務上の取扱い」旬刊商事法務2294号43頁
  • 最高裁決定令和3.12.14資料版商事法務454号101頁
  • 北村雅史ほか「会社法における会議体とそのあり方〔W〕」旬刊商事法務2329号45頁

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